近代日本における洋食の歴史

池波正太郎氏は「食べ物は昔のものほど良い」という価値観をあえて貫き通し、またそれが多くの人々に影響を与え続けた通人ですが、その氏に対して「昔のことを知らないようだ」と指摘できる人物が、この著者をおいてどこに存在するでしょうか!

このように本書は主に揚げ物料理を通じて、近代日本における洋食の歴史を紐解いていく本です。個人的に特に興味深かったのは、日本の洋食が、フランス料理・イギリス料理・アメリカ料理が混淆して生まれたという分析でした。

そしてその3つの料理は当時、国内だけではなく世界的に見ても「三大高級料理」と見做されていた、という指摘。フランス料理はともかく他の2つに関しては、今とはずいぶん感覚に違いがあってにわかには信じ難くもありますが、もちろん、英語・フランス語などの一次資料にもあたった上での納得する他ない見解です。

著者は本書以外にも、お好み焼き、牛丼、カレーといった、誰にとっても馴染み深い食べ物の「真実」に迫ったいくつかの著書があります。

なぜアジはフライでとんかつはカツなのか? おいしいものをたらふく食べるために心血を注ぐ人々の存在こそ最高の人間ドラマである理由_4
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どれも本書同様、徹底的な検証に基づくという意味で極めて学術的でありながら、そこから浮かび上がるのはひたすら豊かなロマンです。時代時代の人々が、おいしいものをたらふく食べるために、いかに心血を注ぎ続けてきたか。

そこには時に、滑稽さや吝嗇(りんしょく)だってあります。でも確実に前進してきた。それこそが最高の人間ドラマなのです。

写真/shutterstock

食の本 ある料理人の読書録
稲田 俊輔
食の本 ある料理人の読書録
2025年4月17日発売
1,067円(税込)
新書判/224ページ
ISBN: 978-4-08-721357-7

人生に必要なことはすべて「食べ物の本」が教えてくれた――。
読めば読むほど未知なる世界を味わえる究極の25作品。

食べるだけが「食」じゃない!

未曾有のコロナ禍を経て、誰もが食卓の囲み方や外食産業のあり方など食生活について一度は考え、見つめ直した今日だからこそ、食とともに生きるための羅針盤が必要だ。

料理人であり実業家であり文筆家でもある、自称「活字中毒」の著者が、小説からエッセイ、漫画にいたるまで、食べ物にまつわる古今東西の25作品を厳選。

仕事観や死生観にも影響しうる「食の名著」の読みどころを考察し、作者の世界と自身の人生を交錯させながら、食を〈読んで〉味わう醍醐味を綴る。

【作品リスト】
水上 勉『土を喰う日々』
平野紗季子『生まれた時からアルデンテ』
土井善晴『一汁一菜でよいという提案』
東海林さだお『タコの丸かじり』
檀 一雄『檀流クッキング』
近代食文化研究会『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』
玉村豊男『料理の四面体』
野瀬泰申『食は「県民性」では語れない』
三浦哲哉『自炊者になるための26週』
加藤政洋/〈味覚地図〉研究会『京都食堂探究』
原田ひ香『喫茶おじさん』
千早 茜『わるい食べもの』
ダン・ジュラフスキー/[訳] 小野木明恵『ペルシア王は「天ぷら」がお好き?』
畑中三応子『ファッションフード、あります。』
上原善広『被差別の食卓』
吉田戦車『忍風! 肉とめし 1』
西村 淳『面白南極料理人』
岡根谷実里『世界の食卓から社会が見える』
池波正太郎『むかしの味』
鯖田豊之『肉食の思想』
久部緑郎/河合 単『ラーメン発見伝 1』・『らーめん再遊記 1』
辺見 庸『もの食う人びと』
新保信長『食堂生まれ、外食育ち』
柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』
森 茉莉/[編] 早川暢子『貧乏サヴァラン』

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