筋力は0まで落ち込み…

当然、医者とは押し問答となったが、長瀬さんの情熱に折れ、手術は延期。がんの影響で子宮は2倍に膨れ上がり、下腹は視認できるほどむくんでいたが、なんとかオールジャパン(35歳以上163センチ超級)で初優勝を飾り、世界選手権にも出場。

「日本に帰って即入院です。ふだんはサロンに行って大会用のネイルやまつ毛を落とすのですが、そのときはそんな時間はないから飛行機の中でやりました」と笑って振り返るドタバタの帰国劇。そして見事に手術は成功し、予後も良好だった。

「これで競技が続けられる」と安堵した長瀬さんだが、子宮頸がん摘出のための開腹手術はトレーニングにもステージングにもよくない影響を与える。

入院中の長瀬さん。術後は筋膜と傷が癒着するから動く必要があったというが「本当に痛くて大変でした……」(写真/本人提供)
入院中の長瀬さん。術後は筋膜と傷が癒着するから動く必要があったというが「本当に痛くて大変でした……」(写真/本人提供)

「手術して2か月でトレーニングを再開したものの、やっぱりお腹が痛かったですね……。手術前はスクワットで80キロの重量を持てたのに、バーもかつげなくなっていてショックでした。

お医者さんも競技のことを知っていたので丁寧に縫合してくれましたが、トレーニングで腹圧がかかって傷口が開いてしまい、今も手術痕はあまりキレイじゃないです。

翌年の世界選手権で海外の選手に『あなたはどうして腹筋を書いてるの?』なんてことも言われました。もし筋肉のカットを(ペンなどで)自分で書いてたら失格になってしまいます。その選手には『キャンサー』(がん)だと伝えたら、ものすごく謝られましたけど(笑)。

今はこの傷をいろんな人が勲章だと言ってくれます」

47歳、がんサバイバーにしてこの肉体美。体を美しく見せるコツについて「自分で軸を感じて、爪の先まで神経が行き届かせるよう心掛けています。力まず自然体でもビシッと筋肉を見せるマッスルコントロールが大事です」
47歳、がんサバイバーにしてこの肉体美。体を美しく見せるコツについて「自分で軸を感じて、爪の先まで神経が行き届かせるよう心掛けています。力まず自然体でもビシッと筋肉を見せるマッスルコントロールが大事です」

カムバックシーズンである2019年はオールジャパンの連覇に加え、アジアマスターズ選手権2位、IFBB世界マスターズ選手権は3位と昨年の成績を大きく上回った。

「それまでは緊張しいだったのが、手術を受けて死ぬこと以外、大したことないって思えるようになったことが大きいかも」と彼女は言うが、それもすさまじい精神力あってのことだろう。