ノウハウがないなら、異業種の力を借りればいい 

――政府も自治体も、もっと変わらないといけないように思います。

その通りです。ただ、観光振興が本格化したのは2003年頃で、日本の観光業はまだ発展途上。いわばスタートアップのようなものです。でも「経験がないから仕方ない」では済まされない。

――ノウハウがないなら、どうすれば?

異業種に頼ればいいんです。ホテルが観光業の資格を取得し、自ら体験コンテンツを企画・販売するケースが増えています。訪日観光客がまず行うのは宿泊予約ですから、ホテルは地域の“窓口”でもある。

たとえば、三重県の「アマネム」というホテルでは、伊勢志摩の食や文化を楽しめる宿泊プランを提供しています。予約段階で地域の魅力を提案できれば、観光客の体験価値は格段に上がるはずです。

東京駅にある外国人専用のJR EAST Travel Service Center(読者提供)
東京駅にある外国人専用のJR EAST Travel Service Center(読者提供)
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――とはいえ、ニセコでは外資系の進出で、地域にお金が落ちないという現状もあります。

だからこそ、外資系企業が施設を乱立する前に、地域の人間が主体的に動くべきなんです。

そのためには地域住民の理解も必要で、観光収益を文化財の修復や地域産品の開発に還元し、住民が恩恵を実感できるモデルを作ることが重要です。地元企業が潤い、地域住民も助かる。それが、観光を通じた地方創生の理想形です。

また地方には、都市にはない文化・自然資源がまだまだ眠っています。こうした“埋もれた資源”をいかに掘り起こし、魅力的な商品として打ち出していけるか。これがこれからの観光に求められる視点です。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

観光"未"立国~ニッポンの現状~ (扶桑社新書)
永谷 亜矢子
観光"未"立国~ニッポンの現状~ (扶桑社新書)
2025/3/1
990円(税込)
216ページ
ISBN: 978-4594098773
営業、編集、PR、プロモーション、社長業に大学教授。リクルートで、東京ガールズコレクションで、よしもと他で鍛え上げた〝叩き上げのマーケ脳〟を持つ著者が初めて書き下ろした観光業界のリアルを描いた衝撃作。 「日本の観光業界は、こうなっていたのか!」 ◇ 過去最高の水準を更新するも「地方が稼げていない」現実 2024年、訪日外国人の人数は3686万人、観光消費額は8兆円を突破。インバウンドの高まりは過去最高記録を更新しました。折からの円安で日本人による国内旅行ニーズも過熱しており、「観光」は日本で数少ない成長産業へと進化を遂げています。 でも、果たしてこの国は本当に観光で稼げているのか。観光業が今後の日本を支える基幹産業委として発展していくための下地やサポートの仕組みは行き届いているのか。こうしたことを冷静に分析すると、まだまだ問題山積な現状があります。 特に地方においてこの傾向は顕著。 地域に魅力があっても情報発信ができていないため、観光客に「見つけられない」。 日本の地方や田舎に興味を持つ人は世界中にいるのに、二次交通が脆弱すぎて地方まで観光客が「来てくれない」。 地域の魅力を理解する体験コンテンツがない。 観光にまつわる補助金の使い道や制度そのものが実態に即しておらず、せっかくの補助金や助成金が活きた形で「使われない」――。 さまざまなキャリアを積み、現在も富山県、山梨県富士吉田市、三重県伊勢市をはじめ8自治体と一緒に観光の現場に日々立ち、生粋のマーケターである著者には、日本の観光業界にまつわる課題点がハッキリと目に映っています。 このままでは、もったいない。何が問題か知り、解決への具体的な施策を打っていくことが必要。そんな思いから執筆に至ったのが本書です。 〝机上の空論〟で終わらない、実践的な思考法とノウハウが詰まった本書は、観光従事者はもちろん、マーケティングを必要とするすべての人にとって大きな武器となるはず。 日本の観光業が、その担い手たちがきちんと稼げる観光経済圏を作るには、何を知り、何をなすべきなのか。この1冊を読み終わったとき、その答えがきっと脳内に宿るはずです。
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