洗脳されていく同期「こうやって成長するものですよね」

社長の演説には圧を感じるほどの熱量があり、少しも目を離してはいけないような緊張感が漂っていたという。

「この会社で何を成し遂げたいか」

社長からいきなりそう問われて、ばらんさんの同期の女性が出した回答に社長が噛みつく。期待と違う答えだったのか、社長はその女性を厳しい口調で理不尽なまでに責め立てていき、ついにはその女性は泣き出してしまった。

「社長の研修を受けているときは、耳が遠くなる、視界に星が飛ぶ、寒いのに汗が出る……と、すさまじいストレスを感じました。そして、同期の女性が泣いているのを見ていた別の同期が『こうやって成長するものですよね』と微笑みながらつぶやいたとき、自分の中で何かがはっきりしました。

社会や仕事のことなんて何ひとつ分かりません。でも、ここに染まることがわたしの思う社会人ではない。それだけは確かでした」

こうしてばらんさんは、出社1日目の休憩のタイミングで、担当の上司に辞意を伝えた。

上司は驚いた様子はなく淡々としていて、「ちょっと早すぎるんじゃない?」「もう少し続けてみたら?」といった言葉で引き留めようとした。だが、ばらんさんの意思は固い。やがてそこへ管理職の女性がやってきた。

「そんな子、うちにはいらないから。さっさと辞めな!」

その女性の勢いにばらんさんは驚いたが、これでむしろ心がスッキリし、「やっぱりここはわたしの居場所じゃない」と思うことができたという。

その後、書類に記入して退職手続きを行ない、初めて出社したその日に会社を辞めることになった。

「辞めた直後は、重たい肩の荷がすっと下りたような、ふわふわと軽くなるような感覚がありました。もちろん、不安がまったくなかったわけではありません。でもそれ以上に、納得できない場所に無理してしがみつくより、自由でいられることのほうがずっと心地よく感じられました。

あの環境から抜け出せたこと、自分の意思で動けたことが、その後の歩みを照らす希望になりました」

ばらんさん本人
ばらんさん本人

ばらんさんは会社を辞めた後、“自分が本当にやりたいこと・向いていること”を改めて考え、心理士という職業を知った。