57歳で襲った「中年クライシス」
「60歳を迎えた先の生き方が見えなくなってしまった」
そう語るのは、中部地方に住む無職の伊藤さん(57)。今年春、新卒から30年以上勤めた会社を退職した。現在は妻と二人暮らしで、子どもたちはすでに社会人として巣立っている。
定年の65歳まで残り8年。会社の管理職として責任あるポジションにもいた伊藤さんだが、なぜ早期退職を選んだのか。
「若い頃は現場でバリバリ働いていましたが、40代以降は現場を退き、管理職や裏方・調整役に回ったんです。やりがいはどんどん薄れていく一方でしたが、給料は上がっていくし、育ち盛りの子どもたちもいたので、当時は会社を辞める選択肢はありませんでした。
ただ子どもたちが社会人として巣立っていき、末っ子が大学3年生になったタイミングで、生活の先が見えてきたんです。お金のことだけ考えたら65歳までしがみついた方がよかったんですけど、『このままここにいていいのだろうか…』という漠然とした不安や焦りが沸き起こってきました」(伊藤さん、以下同)
周囲を見渡せば、同僚や上司は肩書や自らの立場を守ることに必死で、心の底から魅力的だと感じる人は自分の周りから年々減っているように感じた。会社の経営状況も下火で、60歳から65歳の5年間は同じ仕事内容でも給料は半分にまで下がる。
悶々とした日々を送る中、突如会社のトラブルが立て続けに発生し、伊藤さんは精神的に追い込まれていった。不眠状態が続き、アルコールの量も増した。
「このままここにいたらまずい」
そう感じた伊藤さんは今年春、57歳で新卒から30年以上勤めた大手企業を退職した。
「妻は最後までこのような辞め方に反対でした。『労働者の権利なんだから、休職して傷病手当をもらいながらこれからのことをゆっくり考えたらいいんじゃないの』と言ってくれました。でも自分にはそれができなかった。今でも、会社のために粉骨砕身尽くしてきた自分が、どうしてこんな退職の仕方になったのか、よく分からないです…」