人間の精神面での遺伝子継承
ラテン語 ちなみにヤマザキさんにとってはどうでしょう?人生は長いと思いますか?短いと思いますか?
ヤマザキ 死についてはいつも考えていますが、長い短いについてはあまりこだわりはありません。与えられた天命を全うできればそれで満足です。
死ぬのが明日だろうと、80歳になってからだろうと、100歳を過ぎてからだろうと、心情的にはあまり変わりませんね。もう十分にいろいろやってきたという充足感はあります。人間という社会性の生き物のあり方もよく分かったし、波瀾万丈ではあったけどいろんな経験をして面白かったからもういいや、みたいな感覚はもう備わってます。
まだまだやり残していることがあるから頑張らなきゃ、もっと人生楽しまなきゃ損! なんていう執着は一抹もありません(笑)。だからたぶん、その時が来たら潔く死を受け入れられるかと思います。
たぶん、自分の尊敬した人々や自分を支えてくれた生き物たちもみんなあの世の住民なんで、それもまた死をポジティブに受けられる要因になっている気がしています。
私の漫画はプリニウスにしてもジョブズ※5にしても、この世にいない人たちが主題になっているものが多いのですが、そうすると彼らと対話をしている気持ちになってくるんです。
彼らの実績は、人間の精神面での遺伝子継承だと思っていて、それさえ果たせたらもういいのかなという気持ちがありますね。
ラテン語さんは、長生きしたいと思いますか?
ラテン語 できれば長生きをして、いろんなものを書いて、人々にラテン語を広めたいというのはあるんですが、何歳まで生きたいという数字的な目標は特にはないです。自分のやりたいことを全うできれば。あと、これは趣味の話になってしまいますが、東京ディズニーランド開園100周年を見届けられればと思います(笑)。
ヤマザキ 目的が成就する瞬間が明確なのはいいですね。100周年はいつですか?
ラテン語 2083年なので、私は91歳。
ヤマザキ 今はどんどん寿命が延びていますから、ラテン語さんならきっと100周年を見届けられます。大丈夫ですよ。
*注釈
※1 人生の短さについて
セネカの代表作の1つ。49年頃の成立。
※2 セネカ
古代ローマのストア派哲学者、政治家。紀元前4年頃~65年。ネロ帝の家庭教師だったがその不興を買い、自殺。
※3 プリニウス
ヤマザキマリによる漫画『プリニウス』。本名、ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(A.D.23~79年)。史上もっとも有名な博物学者。「寛容・進取・博学」と古代ローマの精神を一身に体現する男でもある。その並外れた好奇心で、天文・地理、動植物の生態、絵画・彫刻など、森羅万象を網羅した百科全書『博物誌』を書き遺す。ヨーロッパで『博物誌』は「古典中の古典」として知られ、後世の知識人たちにさまざまな影響を与えた。
※4 ソクラテス
紀元前470年頃~前399年を生きた古代ギリシャの哲学者。対話による真理の探究を目指した。著作はなく、その思想や人生は弟子の作品に詳しい。
※5 ジョブズ
アップルの創業者として知られるスティーブ・ジョブズ。1955年~2011年。ヤマザキマリはその伝記を漫画化した。
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