パリ市のモットーに学ぶ

ラテン語 開高健がよく使っていた言葉に「漂えど沈まず」もあったそうですが、これはパリ市のモットーであるfluctuat nec mergitur「たゆたえども沈まず」に似ています。

ヤマザキ 開高さんは、格言の引用が大好きな人ですね。コピーライターという仕事をしていたことを踏まえると納得できます。荒波が多くてうまく舵は取れないけれど、沈むことはない。しぶとさ、生命力を感じさせる格言ですね。パリという街らしい粋なモットーですが、そもそもの由来は何でしょうか?

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ラテン語 いろんな説があるんですが、中世に教皇が書いたラテン語です。神聖ローマ帝国※1のフリードリヒ2世※2がカトリックの国と戦争をしていた時に、教皇が「カトリックという船を攻撃しても無駄である。揺れはするけれど、その船は決して沈まないのだから」と、そういう意味で使ったのが最初で、それがパリ市のモットーになったんだと思います。

ヤマザキ 歴史の質感を感じさせるセンスが素晴らしい。これを引用する開高さんもだけど。

ラテン語 モットーにしているのはフランスのパリ市ではありますが、ヤマザキさんが住んでいるイタリアの都市にも、荒波に揉まれながらもたくましく存続する歴史ある街というイメージはありますか?

ヤマザキ 古代ローマは建国時から1000年の間、歴史に残り続けるような戦争がいくつも起きていますし、あらゆる激動を乗り越えてきた国家です。

最後はまあ、沈んでしまうのだけれど、そんな古代ローマに関して言えばdum vivimus vivamus「生きている間生きようではないか」のような言葉に通底するものを感じます。