「人類がまだ把握できていない価値観がロックの中には存在するんだよ」
反骨のロック、パンク・ロックは1970年代に英国で生まれた。そして日本にもそれ以降、人気のあるパンクバンドは存在した。
しかし、これだけピュアでストレートなメッセージを、わかりやすい日本語で歌ったパンク・ロックは、これまでになかった。ヒロトのステージ・パフォーマンスも含め、何もかもが新鮮だった。
パンク・ロックのバンドを組んでいたアマチュア時代の草野マサムネ(スピッツ)は、ブルーハーツを聴いて衝撃を受け、一時期バンド活動を休止してしまったという話もあるほどだ。
ブルーハーツの曲は、そのほとんどがヴォーカルのヒロト、またはギターのマーシーのどちらかによって書かれている。
『THE BLUE HEARTS』はパンク色の強いアルバムだが、ブルーズやR&Bなどからも影響を受けたというヒロトと、ビートルズからも影響を受けたというマーシーは、その後もパンク・ロックというジャンルに縛られることなく自由な表現で、自分たちのロックン・ロールを鳴らすことを試みてきた。
そして1995年のバンド解散後も、ヒロトとマーシーはザ・ハイロウズを、2006年にはザ・クロマニヨンズを結成し、共に活動し続けている。
しかし解散後、彼らがブルーハーツの楽曲を演奏することは二度とない。
世の中にいろんな価値観が出尽くして、最後にその全ての価値観に外れちゃった人がいたとする。そいつにとって最後に残された可能性がロックなんだ。人類がまだ把握できていない価値観がロックの中には存在するんだよ。それを僕は「最後の価値観」って呼ぶんだけど。
その「最後の価値観」がロックの中にあるのだから、他に失っていくものに対して未練を感じなくていいと、ヒロトはブルーハーツ解散時のインタビューで語っている。
ブルーハーツの彼ら4人が駆け出した頃の、一番ピュアで青い衝動を、パンク・ロックという形で定着させたのが『THE BLUE HEARTS』だった。

ほぼ一発録りでレコーディングされたこのアルバムは、まさにブルーハーツのタイトル通り“青い心”が表現されたアルバムと言っていいだろう。
それは、当時の彼らにしか表現できないものだった。永遠に封じ込められたからこそ、今もピュアさを失わず輝きを放っているのだ。
文/阪口マサコ 編集/TAP the POP
参考文献及び引用元:「MSムック King of Rock Band THE BLUE HEARTS」(アイピーコーポレーション)