自分を守りながら生きていたら、気づいた時には社会から孤立していた。……そんな人に手渡したい二冊が、『小山さんノート』と『自虐の詩』だ。

  『小山さんノート』とは、「小山さん」と呼ばれたホームレス女性が大量に遺したノートを、有志の方々が文字起こしし、刊行した作品である。

『小山さんノート』小山さんノートワークショップ 編/エトセトラブックス
『小山さんノート』小山さんノートワークショップ 編/エトセトラブックス
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 小山さんは「フランス」や「イタリア」と名付けたお気に入りの喫茶店で、このノートにいつも書きものをしていた。

 〈私は私自身でありたい〉という思いで綴られたそのノートには、厳しい路上生活の内情や手放さなかった希望、彼女の目を通した社会が書かれており、かけがえのない光に満ちている。私はそんな小山さんの内側に拡がる小宇宙の奥行きに圧倒されつつも、苦しくなるほど共感した。自分も昔、バイトの合間に喫茶店で音楽を聴きながらもう一つの世界を夢想し、目の前の日々をどうにか生きていた時期があったから。まったく他人事とは思えなかったのだ。

 読み進めるうち、この一人の女性に降り注ぐ困難や理不尽を目の当たりにし、自分のままであり続けることがいかに綺麗事では済まないかを知った。そして、これだけ切実なものが生まれた背景には、「生存」と「自分自身」を天秤にかけられ続けた日々があったということにも気づく。私も小山さんと同じ立場だったら、庇護や支援を拒否して自由をとるだろうとも。

 次に『自虐の詩』。

 無職でギャンブル好きのダメ男と、男に甘い幸薄い女性・幸江という、まるで私の分身のような女性が主人公の物語。ちなみにこの漫画を私に教えてくれたのも、ダメ男・イサオのような人だった。

『自虐の詩』(上・下巻)業田良家著/竹書房
『自虐の詩』(上・下巻)業田良家著/竹書房
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 この『自虐の詩』ほど、根源的で純度の高い人生哲学を描いた漫画を他に知らない。上巻は淡々としたギャグが続くが、終盤に差し掛かると、一気に思いもよらぬ展開を迎える。

 幸江が最終的に見つけた「幸せの境地」は、幸江の生き方を理解しようとすらしない世間の人達――弁当箱のような狭苦しい社会の枠組みの中で、自分がどう思うかよりも他者からの評価や世間体を重視し生きている人達には、一生到達し得ない場所にある。

 小山さんも幸江も、傍から見たら悲惨な人生を生きた女性にしか見えないかもしれない。だが、そんな二人が見つけた“生きる意味”やこの世の無常は、本物だ。そんな二人の物語は、私の中にもある誰にも触れさせないひとりぼっちの心にも静かに共鳴してくれるのだった。

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