自民党の裏金問題に関しては、本来右翼も左翼も関係ないはず…国民が無気力になるほど「後進国」化していく日本の実相
自民党派閥裏金事件に関わった議員に対して、石破首相が党として公認するのかしないのか……参院選を見据えて衆院予算委員会でも議論がされている。裏金や脱税という重大なルール違反を犯したにも関わらず、処罰一択ではないのはなぜなのか? その背景にはニュートラルに善悪の判断すらできなくなってしまっている国民にも問題があると指摘するのは、戦史・紛争史研究家の山﨑雅弘氏だ。
書籍『動乱期を生きる』より一部を抜粋・再構成し、政治を巡る議論のあまりにも貧しい状況について詳述する。
動乱期を生きる #2
自民党の裏金問題に関しては、本来、右翼も左翼も関係ないはず
山崎 本当なら、国家指導部が無能だと判明した時点で、それを別の何かと取り替える動きが生じるはずですが、国民の側があまりに受け身の思考だと、そんな自浄能力も働かず、無能な指導部に忠実に従うことで、状況をさらに悪化させる役割を担ってしまいます。
先の戦争中の大日本帝国の臣民もそうでした。
臣民とは、国民を天皇に忠義を尽くす「しもべ」と見なす言葉で、当時の日本国民は一人ひとりが主体的に物事を判断したり、個人として独立した価値を主張できる存在とは認められていませんでした。
政府の愚民化政策という指摘がありましたが、一人ひとりが主体的に物事を判断しない、できない国民に政府が仕立てる行為は、政府自身の愚かさを政策化して国全体を弱体化させるものだと言えます。
また、政治をめぐる議論が「個々の問題そのものに関する構造的分析」ではなく「AとB、どちらの側につくか」という陣営対立の勝ち負けゲームにすり替わっていることも、状況をさらに悪化させる一因となっているように思います。
たとえば、自民党の裏金問題に関しては、本来、右翼も左翼も関係ないはずです。
裏金や脱税という重大なルール違反にどう向き合うか、どんな処罰を適用するかという、普遍的な倫理の問題であるはずなのに、「自分は与党支持の陣営だから擁護する」とか、「自分は左翼の側にはつきたくないから自民党の裏金問題も批判しない」というふうに所属陣営を基準に振る舞う「プレイヤー」が少なくありません。
裏金議員に対しての処罰が一貫しない石破首相
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右派対左派、保守対リベラルなど、使い古された既存の二項対立にあらゆる政治問題を矮小化し、詭弁や屁理屈で「自分の属する陣営」を守るという態度は、自分が所属する部隊の上官に隷従する兵士の行動に似ています。
相手を言い負かすことが目的化してしまい、個々の政治問題そのものについての自分の意見や評価を持たず、ニュートラルな善悪の判断もできなくなっている人が増えているのではないでしょうか。
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動乱期を生きる
内田樹 (著), 山崎雅弘 (著)
2025/3/3
1,122円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4396117108
知の巨人と気鋭の戦史・紛争史研究家がとことん語り合う
資本主義、安全保障、SNS選挙、トランプ大統領、中東問題……
「株式会社思考」が蔓延する社会
すでに権力を持っていることを理由に、強者が権力者然としてふるまう政体。それを「パワークラシー」という。
そして、このパワークラシーにどっぷり浸透してしまっているのが日本の社会である。
現代の日本では、強者を求める国民心理、短期的利益を求める「株式会社思考」が蔓延している。
さらに、マスメディアによるジャーナリズムの放棄、現状追認を促すインフルエンサーの台頭と相俟まって、傲慢で短絡的な政治家・インフルエンサーの言動が人気を集める不可解な現象が起きているのだ。
一方、世界を見渡しても、近代以前への回帰志向を持つ指導者が支持を集め、恐怖と混乱をもたらしている。
この動乱の時代において、私たちに残された道はあるのか?
本書では異なる専門を持つ二人が、300ページを超える圧倒的なボリュームで、日本が抱える問題とディストピアを余すことなく語る。
暗い未来の中に見える一筋の光とはーー。
[目次]
第1章 倫理的崩壊の危機
第2章 地に落ちた日本の民主主義
第3章 教育システムの機能不全
第4章 動乱期に入った世界
第5章 自ら戦争に歩み寄る日本
第6章 2024年の衝撃
第7章 思考停止に陥る前にできること