創業の「一代目」さんと老舗の「ぼん」

儲かったからといって、利益をぎょうさん出したところで、どうするんや、税金にみんな持っていかれるだけやないか、というわけですが、私が見るところ、こういう話は京都では「一代目」の店、つまり「創業者の店」で多いように思います。

結局、京都の料理屋の「一代目」の人達は、たとえば外国の人ばかりを相手にした商売して、お客さんがいっぱいになって、「一人前になったら、かっこいい外国車に乗りたいな」といった夢をかなえた。そういう夢を励みにして商売をやってきたんや、というわけです。

一生懸命やって、お金が入ってくるようになると、フェラーリを3500万円で買ったりする。祇園のクラブに行って、毎日のように酒飲んだりするようになる。そして、結局、国税に入られてぎょうさん税金を取られたりするわけです。

あんた、そんなにほうけている場合とちゃうでと、言うてあげたのに、懲りもせずにまた新しい彼女を作ってみたり、そういうことをする。

それも創業者で、一代で一生懸命やってきて、金儲けて独り立ちした、だからそういうことがやりたいというのは、私もよくわかるんですよ。わかりますけど、「一生懸命」の、その方向性が違うんやないか、ということなんです。

その点、いわゆる老舗の「ぼん」連中はどうかと言うと、ちょっと違ってきます。

「ぼん」連中は、何代も続いている家の子やから「ぼん」じゃないですか。大体が、お金のある家の子。それがみんな、ちっこい車に乗って走り回ってる。

「お前、この前買うた言うてたBMWのでかいやつはどうしてんねん」と訊いたら、「あんなのでこの街は走れませんよ」と言う。「あんなの停めるところもないし、大変ですよ」と言う。さらに「走れたら充分。これで充分ですわ」とか言って涼しい顔してる。

先のフェラーリ買うたとかいう人らと別に、この「ぼん」らはそんなことに価値を求めていない。細い路地が多い街を走るんやったら、これで充分。走るんやったらちっこい車で充分、いや、その方がいいと言うんです。

それくらい、創業者、一代目でブイブイ言わしてる若い連中と、京都の「ぼん」連中は持ち味も価値観も相当違う。

「菊乃井 無碍山房」のお弁当 写真/畑中勝如
「菊乃井 無碍山房」のお弁当 写真/畑中勝如
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そこで、この連中をごちゃ混ぜにしたら、ちょっとおもしろい化学反応が起こるかもしれんなと思って、そういう機会を作ったんですが、失敗しました。うまくいきませんでした。やっぱり、合わないんです。

合わない、というのは、こういうことです。

一代目でやってきた連中は、「お前らがへらへら学生やってる時に、俺らは歯を食いしばって頑張ってきたんや」という思いが強烈にある。「お前らに決して負けへん」と思っているわけです。

一方、「ぼん」連中は何も思っていない。何も意識してないから、「あの人らは言葉に圧がある」とか、果ては「こわい」とか言う。「こわいやろな」と思います。創業者、一代目の連中は、「いけいけ」「攻撃的」、英語で言うたら「アグレッシブ」ですからね。

「ぼん」連中は皆それなりに、同志社とか立命館、そこらへんの大学ぐらいは出ているわけで、下手したら大学院に行って、皆それなりのものを見て、聞いて、この商売を継いでいる。あんまり「アグレッシブ」やらの気持ちは持ったことのない連中です。

そんなこんなで、「ぼん」連中は何も意識してへんけど、一代目の連中はかなり意識している。こういうわけです。


文/村田吉弘

ほんまに「おいしい」って何やろ?
村田 吉弘
ほんまに「おいしい」って何やろ?
2024/9/26
1,980円(税込)
248ページ
ISBN: 978-4087817591
著者の村田氏は、京都の老舗料亭「菊乃井」の跡取りとして生まれ、「ほんまにおいしいものって何や?」ということを追及して70余年。
世界中の美食を食べ歩き、味覚そのものを研究するアカデミーを作り、「日本料理店」として現在まで本店・支店で併せて7つものミシュランの★(星)を獲得し続けている「料理界のカリスマ」である。
アラン・デュカスをはじめフランス料理のカリスマ・シェフたちとの交流も深く、アカデミーの仲間たちとともに「和食」をユネスコの無形文化遺産にも押し上げた。
広島サミットの料理は各国首相に絶賛された。料理界を代表する文化人として史上初めての黄綬褒章を受け、文化功労者にもなり、「京都の伝統や日本文化のご意見番」としても知られている。
そんな村田氏も若き頃は、フランス料理のシェフをめざして行ったパリで放浪生活を送り、ソルボンヌの学食やフランス料理のレストランで受けた人情の温かさに感動する。
やがてフランス料理の文化的な奥深さに感じ入り、自分がなすべき仕事は「日本料理」と自覚する。
日本に帰ってきたあとは、修行先で包丁を突き付けられるほどのいじめにあうが、人の嫌がることを率先して引き受け何倍も働き、次第に周囲に実力を認められていく。
初めて店長を任された新店に閑古鳥が鳴く中、夜の商売のお客から大会社の会長まで、皆から何かを教えられ、やがて一流の料理人として、経営者として成長していく。
昨今の、おおげさに「うま~い、おいしい」を繰り返すテレビのグルメ番組や、「お金さえだせば、おいしいものを食べられる」と勘違いするグルメ・ブームには、ぴしゃり!とダメだしをしつつ、身近な給食や家庭の手料理まで「おいしさの本質」を追及し、後進を育てている。
抱腹絶倒! 歯に衣を着せぬ食の世界と波乱万丈な人生を語り、食の本質、食の未来を熱く迫る! (豪華カラー口絵つき!)
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