宿泊料金を上げざるを得ないホテル側の苦しい事情
永山氏は日本人宿泊客と外国人宿泊客のトラブルの違いについてこう語る。
「日本人はコロナ禍で行けなかった場所に、何年ぶりかに旅行するとなると、思いっきり楽しみたい気持ちになるんですよね。たとえば、3万円の宿に泊まる場合、『これだけ高いなら、どれだけ楽しませてくれるんだろう』といった思考になる方が多いんです。
逆に外国人の場合は、『コストとサービスが見合っていればそれでいい』と考える人が多い。
日本人の場合は『1人いくら』を考えるのが一般的ですが、外国人は『1部屋いくら』と計算する人が多いので、2人分の予約なのに5人ぐらいで来てしまう、といったトラブルが起こることはけっこうあります。
ただ、言葉が通じないぶん、外国人のほうが比較的素直に従いますね。そこで食ってかかることとかは、あまりなくて。細かい言葉尻で『気分を害した』とか、そういったことを言う人はやはり日本人に多い印象です」
宿泊価格が高額になるほど、サービスへの期待も高まり、客としてはクレームを入れたくなる心理が働く。
特に、最近では観光地や都内を中心に宿泊料金が急上昇しているが、これにはコロナ禍での大幅な減益を取り戻すという、施設側のやむを得ない事情が背景にあるようだ。
「もともと、稼働率が100%近くないと回らない物件が、コロナ禍の数年間は半分以下でやっていたわけです。だから、倍の値段で3年間ぐらい営業を続けないと、収益的には元に戻らない。ただ、需要も値段も上がったことで、ここ最近は業界的に好調ではあります」(同前)
だが、業績好調で先行き明るいのは、一面的な見方でしかない。現在の宿泊業界は深刻な人手不足に陥っている。
「今、本当に人手不足が深刻です。コロナ禍のとき、外出先での宿泊や飲食って犯罪者のように扱われましたよね。
だから、家族から『もう辞めなさい』と言われたり、『夢を持って業界に入ったけど、もう無理』と感じたりして辞めてしまった第一線のフロントやサービススタッフがたくさんいるんです。
一説には、こうした理由で辞めたスタッフが、ホテル業界全体で2割ぐらいいると言われています。
しかも、その状況が草刈り場になってしまって、たとえば、料理が作れるような人たちはレストランに引き抜かれてしまいました。マルチリンガルでサービス力のある人材は、ホテルを辞めてもほかのいい職場が見つかるため、わざわざホテル業界に戻る理由もありません。
人材の育成にも時間がかかるし、仮にスタッフが戻ったとしても稼働率が上がっているぶん足りないわけですから、見た目の数字以上に人手不足は深刻なんです。
地方のおじいちゃんやおばあちゃんが営んでいる旅館なんて、募集をかけても人材は集まらないし、そのまま働くのはしんどいしで、稼働率を抑えるために部屋の2割ほどを閉めているところも少なくありません。宿泊料も上がっているから十分だ、って」(同前)