新薬は症状を遅らせることが可能
そもそも認知症とは、脳の病気により神経細胞の機能が低下または死滅し、記憶力や判断力が衰え、日常生活に支障をきたす状態を指す。
認知症の発症原因として最も多いのがアルツハイマー病で、全体の6割以上を占める。アルツハイマー病は「アミロイドβ」というタンパク質が脳に蓄積することで引き起こされる。
通常、アミロイドβは日々産生と分解を繰り返し均衡を保っているが、生活習慣などの要因により分解量よりも蓄積量が上回ってしまう。その結果、アミロイドβの毒性により神経細胞が死滅し、脳が萎縮して、さまざまな障害が発生するのだ。
認知症は長年「不治の病」とされてきたが近年、新薬「レカネマブ」と「ドナネマブ」の登場により、大きな転機を迎えている。これらの新薬は蓄積したアミロイドβを除去する効果があり、認知症の発症を遅らせることが可能だ。
「新薬による治療の効果は、アルツハイマー型認知症の発症前段階である軽度認知障害(MCI)や軽度の認知症に限られます。この段階で治療を開始し、症状の進行を2〜3年遅らせることができれば、医療費や介護費用、家族の介護負担をその分軽減できます。新薬の投与により、患者さんはより長く自立した状態を保つことができ、あるいは周囲からの最小限のサポートで生活を送ることが期待できるでしょう」(羽生春夫氏 以下同)
認知症によって引き起こされるBPSDと呼ばれる周辺症状には、徘徊、暴言、抑うつ、妄想、幻覚などがある。これらの症状が現れる前の段階で抑制できれば、ケアの負担は減少する。完治には至らないものの、新薬がもたらす医療効果は、患者とその家族にとって非常に大きいといえるだろう。
日本ではレカネマブは2023年12月に保険適用となり、ドナネマブは今年中に保険適用される見通しだ。薬価は高額だが、「高額療養費制度」を利用できれば、所得によっては月に数万円の負担で済む。
先に承認された「レカネマブ」は厚生労働省も周知に努めており、全国各地の病院でも少しずつ使用ができるようになってきている。
このように認知症の根本的な治療への兆しはわずかながら見えつつあるものの、新薬を投与しても一度失われた細胞は戻らないのが現状だ。適切な治療を行なうためには、認知症の初期症状を見逃さず、早期発見することが極めて重要であるといえる。