ネコは30歳、ヒトは125歳まで生きる日が来る?
奇跡のタンパク質「AIM」の最前線 後編はこちらから
体の中のゴミを掃除するAIM
AIMとはapoptosis inhibitor of macrophageの略語で、宮崎氏が1999年に論文発表した血中タンパク質の一種だ。AIMは通常、IgMと呼ばれる抗体の一種と結合しているものの、病気などで体内にゴミが発生するとIgMから離れてゴミと結合。このはたらきによって、腎臓を詰まらせる、死んだ細胞などのゴミを排除するメカニズムを解明した。宮崎氏はこれまで、ゴミを掃除する働きがあるAIMによってヒトの腎臓病、脳梗塞、腹膜炎、肝臓がん、肥満や脂肪肝、アルツハイマー型認知症など様々な病気を予防・治療できることを証明してきたが、多くの動物と違い、ネコのAIMだけが腎臓にゴミがたまってもIgMから離れず掃除できないことを発見。AIMを投与してゴミ掃除能力を高めることができれば、ネコの寿命を大きく伸ばす可能性があるのでは、と研究をはじめた。
腎臓病はすべてのネコがかかる遺伝病
――そもそもネコの腎臓は先天的に機能しておらず、生まれたその瞬間から腎臓が悪くなり続けているという、宮崎先生が解明した事実に衝撃を受けました。
先天性の遺伝病と考えていただければいいと思います。人間の場合も先天性の病気はありますが、大概が10万人に一人とか、100万人に一人といった割合です。ところがネコの場合は100%かかっているわけです。逆にいうと、その遺伝病の原因となっているAIMを補充することで、すべてのネコが助かるわけですね。研究者として、ネコ薬創薬はぜひやらなければいけない使命だと思いました。
――『猫が30歳まで生きる日』を出版することになったきっかけを教えてください。
本の出版のお話をいただいたのは約2年前のこと。まだネコ薬が完成していない段階で本を出すのは中途半端だろうと、お断りしようと思っていたんです。ところが出版社から「今はまず創薬の過程を書いていただくだけでも、ネコを飼っている人には安心材料になるはずです」とおっしゃっていただきまして。その熱意に押されて執筆することになりました。私にとって一般向けの本としては最初のものになります。
――2021年7月、本の出版に先駆けて公開された時事ドットコムの記事によって、宮崎先生の研究が広く一般に知られることになり、当時所属していた東大の東京大学基金には3週間で約2億円の寄付が集まったそうですね?
これまでも論文を書くたびに大学や文科省からプレスリリースを出していましたが、仲間内から評価を受けることが主でしたので、一般の方々の声を直接聞くことはほとんどありませんでした。あれほど応援をいただくことは初めてでしたので、本当に驚きましたね。