「(コロナが)この社会で誰が本当の弱者なのか浮き彫りにしてしまった」
――これまで『Shrink』を描かれてきたなかで、特に印象に残っているエピソードはどれですか?
七海仁(以下同) どのエピソードもそれぞれ思い入れがあるんですが、コロナ編(「新型コロナウイルスと心」編)はコロナ禍になんども病棟に行かせていただいて、医療従事者や支援職の皆さんからお話を伺えたことがすごく印象に残ってます。
一方で、月子さんの表現力にも改めて驚かされたテーマでもありました。コロナ編の描写はほとんどがマスク姿なんですが、それでも表情の違いがすごく伝わってきたので、そこは本当に月子さんに助けられたと思います。
――新型コロナウイルス編は、どのように始まったんですか?
コロナ禍が始まって一年半ぐらい経ったときに、産後うつ編で取材協力していただいた保健師さんから「コロナを取り上げてもらえませんか?」とメールをいただいたんです。
コロナ禍になってから、シングルマザーの方や大学生の方の抑うつ傾向が進んでいて、自殺率も上がっている。保健所でも大変な目に遭ってる人たちをたくさん見ているので、取り上げてもらえないかと。すぐ取材に伺って、コロナ編を書くことに決めました。
――当時、看護師さんたちの声がXのポストにもたくさんあがってきていましたよね。医療従事者の方々がまさに闘っていた時期に取材をされていたんですか。
そうですね。本編にもありますが、コロナ病棟を担当していたある看護師さんは、お話をしながら「ごめんなさい、ごめんなさい」ってボロボロ泣かれるんです。もう十分以上にお仕事をしてくださっているはずなのに、目の前で人がどんどん亡くなっていくなかで、もっとできることがあったんじゃないかって。誰よりも最前線で頑張っている方が、ご自分をずっと責めていらっしゃるのを目の当たりにして、大変なことが起きてるんだと思いました。
自分だけ助かってしまった」ことに対して責任を感じるというのは、震災編で書いたサバイバーズ・ギルトと同じように見えました。そういう意味では、やっぱりコロナ禍は災害に似ているなと思いました。
ーー「(コロナが)この社会で誰が本当の弱者なのか浮き彫りにしてしまった」という弱井のセリフも、とても印象的でした。
たとえば最近のトー横の問題なども、家庭での経済状況悪化など、コロナ禍の余波でもあると言われています。最近また感染者数が増えていましたが、状況が落ち着いてきた頃に時間差でメンタルの問題が目に見える形で顕在化してきたような印象があります。コロナ禍は、まだまだ終わっていないのかもしれません。
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取材・文/森野広明