IOC全委員に花籠を贈る奇策
韓国代表団はバーデンバーデンに事務所を構え、本格的な活動を始めた。徹底した事前情報の入手、個別ロビー活動の展開、経費支援体制の構築、緻密な事後管理および毎日の点検・確認など、企業の取引戦略と同様な得票戦略を立てた。民間企業は政府からの要請を受けて必要な人員が駆り出され、ビジネスをしばらく中止してオリンピック招致活動に努めた。
バーデンバーデンでは冬季、夏季オリンピック招致活動のための展示場が9月20日から開幕した。名古屋市は開幕2日前に名古屋市長など代表団が集合し、日本のIOC委員を通じて活発な招致活動を展開していた。
他方ソウル側は、民間招致代表団は全員9月20日までに集合したにもかかわらず、招致活動を積極的に推進すべきIOC委員とオリンピック主催都市のソウル市長は現場に現れなかった。代表団はIOC委員がいないと本格的な活動ができないので気をもんだ。
世界各国のIOC委員が滞在しているブレナーズパークホテルへの出入りはIOC委員のみ許可されている。IOC委員がホテルに宿泊しないと、他のIOC委員たちと接触する方法がない。そのためにIOC委員の存在は必須だった。IOC委員がチェックインすれば、その委員に会う口実でホテルに入り、他の委員たちにも接触することができる。なのに、韓国のIOC委員は22日、ソウル市長は24日にようやく到着した。
鄭周永のアイデアで、韓国側は各IOC委員の部屋に花籠を届けた。バーデンバーデン近郊の花畑を買い占め、動員された現代社員の夫人たちが花を一つずつ丁寧に選び、きれいに整えて籠に詰めた。
花に対する反応がすこぶるよかった。その翌日、IOC委員たちが会議終了後、ロビーに集まり、韓国の代表団を見るや、うれしそうに「美しい花を贈ってくださりありがとうございます」とあいさつしてきたのだ。「ワンダフル・フラワー!」と、とても喜んだのである。IOC委員たちは夫婦同伴で出席していることから、女性が喜びそうな贈物として花を選んだのが大当たりだった。