初見殺しの戦術で五輪を席巻する北朝鮮選手
大丸さんがまず指摘したのは、そもそも北朝鮮選手に限っては、世界ランキングが実力を反映していないという点だ。国際大会にあまり出場しない北朝鮮選手は、実際にはメダル候補の実力を持っていたとしても、ポイントを積んでないためにランキングは低い。そしてノーシードで五輪に現れ、シード選手を食ってしまう。
また、国際大会に出場しないことで、選手のデータがほとんどなく対策が立てられないことも、北朝鮮選手が有利になる要因となっている。
「北朝鮮選手は、ただ情報がないだけでなく、“そもそも誰が出場してくるかもわからない”という点も非常に厄介です。予選を勝ち上がってくるまで出場選手がまったく読めず、世界ランキングも低いので、トーナメントのどこに入ってくるか、実際に当たるかもわからない。
そういう選手への対策を、五輪直前期間に組み込むのはどの国も現実的に難しく、結果として北朝鮮が情報・対策の面で有利になりやすい、という構造があると思います」(大丸さん)
情報という点では、今回、負けてしまった早田が試合後に、「情報量が少なかったので、ちょっとプレーが迷ってしまった」とも話している。
もちろん、北朝鮮選手の強みは情報がないことだけではない。ほかの選手とは違う、独特な戦術で対戦相手を翻弄している。
「北朝鮮の五輪代表選手は、バック面に回転が特殊にかかるラバーを貼った異質戦型の選手が多いです。今回の北朝鮮ペアも、女子のキム・クンヨン選手がバックに異質ラバーを貼っていました。リオ五輪で石川、福原両選手を破ったキム・ソンイ選手も、カットマンでバックは異質ラバーでしたね。
異質の選手はいわゆる“初見殺し”のような戦型で、データが集まったり、対策されると少し勝ちづらくなるのですが、北朝鮮選手は前述の通り情報が少ないため、五輪で初対戦となると対戦相手にとってはかなり厳しい戦いになります」(大丸さん)
それなら日本や他国も、北朝鮮のように国際大会に出なければ五輪で勝ちやすいのか、と言うとまったくそうではない。
「普通、国際大会への豊富な経験なくして大舞台でパフォーマンスを発揮するのはほぼ不可能です。それを可能にしているのは、北朝鮮選手が日々の練習から国際大会並みの緊張感を持って、心・技・体ともに我々が想像もつかないような鍛錬を積んでいるからだと想像します」(大丸さん)