厳密な“二重価格”は足踏み、しかしサービス料として…
日本における二重価格はどれほど進んでいるのか、その現状について細川氏が説明する。
「現在の日本において二重価格を厳密に実施しているところは少ないでしょう。実施しているとしても、“接客の手間がかかるからサービス料として徴収する”など、外国人というだけで差別的に価格を設定しているわけではないことを前提とした理由付けをしている場合がほとんどです。
やはり“外国人だから高くする”というシンプルな理由で実施することは、世間から批判されるリスクをはらんでいるため、設定に踏み切れない店や施設が多いのではないでしょうか」
東京・渋谷区にある海鮮食べ放題の店「玉手箱」では、通常価格を7,678円とし、日本人と在日外国人の場合はそこから1,100円割引の6,578円で食べられるのだ。
店長によると、観光客に対して食べ方の説明などで接客に時間がかかることを理由に異なる値段設定をしたという。しかしこうした外国人価格を設定する店舗は国内でも珍しく、観光地の多くの店では完全な二重価格には踏み切れていない状態なのだ。
観光国として魅力を失いかねないデメリットあり
「日本人は安く買えて、店の利益も上がって一石二鳥」というように、日本国民にとってメリットが多いように思えてしまう二重価格だが、なぜ今議論が活発になっているのだろうか。
「二重価格について、自国民が安く買えたり、店の利益が上がったりするというようなメリットから二重価格を導入すべきだという日本人の方も多いですが、実はこれは一時的なメリットにすぎません。
現在SNSなどが発達している関係で、店の評判などはネット上で言語の壁を越えて瞬く間に拡散されます。“外国人だけに高く売る店”という悪いクチコミが広がれば、観光客が来なくなってしまうというデメリットもあるんです。二重価格は一見メリットが多いように思えても、長期的に見ればむしろ観光立国としての集客力を失いかねないものなのです」
続けて細川氏は二重価格導入の難しさについてこう語る。
「例えば、外国人に人気の日本カルチャーをコンセプトにした商品やサービスを開発し、観光客向けに値段を高く設定するようなお店ができたとします。
こうした“いかにも日本らしい”要素を集めた観光地を楽しむ観光客ももちろんいますが、旅の醍醐味として、現地の日本人が通うような“(意図的に作られた空間ではない)ローカルな場所”を求めて来る観光客もたくさんいるのです。
現地の暮らしぶりを肌で感じたい観光客にとっては外国人向けサービスに魅力を感じないこともあるため、需要がそこまで見込めないという可能性も出てきます。外国人向けに価格設定をするということはそう簡単なことではなく、需要や流行など考慮すべき要素が多くあるのです」