「儲かる株を教えてくれ」と聞いてはダメ
「儲かる株を教えてくれ」とChatGPTに尋ねても、結果はたいした出力はしてくれないものだ。花王、キーエンス、信越化学といった高ROE(自己資本利益率)の有名企業の名が出てくるだけで、すでに誰もが知っている株ばかりになる。
よく知られた株に投資するとしても、市場の平均程度のリターンは期待できるが、大きく稼げるとは限らない。多くの個人投資家が夢見るような「投資信託、ファンドマネージャーに勝つ」という成果を目指すには、聞き方に工夫が必要になる。
AIにどんな条件を与えるか、どのように指示を出すか。それによって結果は大きく変わる。
イギリスの金融比較サイトFinderが、ChatGPTに投資アドバイスをさせる実験(※1)を始めたのは2023年3月だった。
ChatGPTに、優れたファンドが使っている投資基準をそのまま伝え、「競争力のある株を選んでください」と指示を出した。選定条件は、財務が健全で、過去に安定した成長を見せていて、ライバルに勝つ力を持っている企業。つまり、プロが好む銘柄をAIに選ばせるという考え方だった。
ChatGPTが提示した38社には、マイクロソフト、エヌビディア、アマゾン、メタ、アルファベット、ビザ、ウォルマート、コカ・コーラ、P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどが並んだ。誰でも聞いたことのある企業ばかりだったが、大事なのは中身ではなく構成だった。全38銘柄を同じ比率で持つといういたってシンプルな仕組みでポートフォリオを作った。
この仮想ファンドと、イギリスで人気の投資信託10本との比較が始まった。比較対象には、Fundsmith、VanguardのLifeStrategyシリーズ、Fidelity、HSBCのインデックスファンドなどが入っていた。いずれもコストが安く、分散投資が利いていて、多くの投資家から支持されているファンドばかりだった。
99%の営業日で、比較対象を上回るパフォーマンス
実験は2年間続けられた。2025年3月の時点で、ChatGPTファンドは+41.97%の累積リターンを記録した。人気ファンドの平均リターンは+27.63%だったので、ChatGPTファンドは14.34ポイントも高い収益を上げた。年率換算でいうと、ChatGPTファンドは約19%、人気ファンドは約13%となった。
Finderの分析によれば、ChatGPTファンドは運用期間の約99%の営業日で、比較対象を上回るパフォーマンスを出していた。
これは偶然ではなく、指示の仕方が功を奏した結果だった。ChatGPTに「儲かる株を出せ」と命じたのではなく、プロが使う選定基準をそのまま与えたうえで、その基準に合う企業を探させた。
AIが自分の知識で判断したのではなく、人間が組み立てたフィルターを通じて株を選ばせたことで、成果の質が高まったのだ。
ChatGPTはニュースの分析でも実力を見せている。CFA協会(世界的に権威ある金融専門機関)が行った研究(※2)では、世界の金融ニュースを毎日配信するブルームバーグの要約記事をChatGPTに読ませ、その内容が明るい話か暗い話かを判断させた。
たとえば、「雇用統計が改善」「インフレ率が低下」などは前向きな内容、「金利が急上昇」「企業の利益が減少」などは後ろ向きな内容とされ、AIはそれぞれに点数をつけた。こうして作った「市場の気分」を表すスコアを使って、株の売買タイミングを決める戦略が考案された。