初となる試合結果は…

活動を続けるなかでうれしいこともあった。強豪校との合同練習だ。

「私たちの取り組みが理解されてくると、胸を貸してくれる学校が増えてきました。昨夏の甲子園優勝校の慶應義塾高校(神奈川県)や強豪・創価高校(東京都)などの強豪校も快く合同練習に応じてくれました。

その様子をみていると、技術の高い彼らが一方的に夢プロジェクトのメンバーに“教えを施す”のではなく、同じ野球人として、対等にプレーしているのが伝わってきました。合同練習は、そうしたスポーツマン同士の交流という意味合いもあり、彼らの成長につながってくれたのではないかと思っています」

障害者と健常者という隔たりはなく、野球というスポーツに惚れ込んだ者同士として向き合うこと。そこに技術の巧拙は関係ない。ただお互いのベストを尽くして声を掛け合う。

練習では穏やかな雰囲気になることも
練習では穏やかな雰囲気になることも

久保田監督は「甲子園夢プロジェクト」の野望をこう打ち明ける。

「特別支援学校の単独チームが出場することは歴史上なく、注目を浴びるでしょう。しかし私はその先を夢見ています。つまり、健常者か障害者かという視点での注目ではなく、『あの子のプレーいいね』と思った子が、調べてみたら『へぇ、特別支援学校の子だったんだ』という、その程度のなにげなさ。そんな風に埋没するくらい、知的障害がある子が硬式野球をやるのが普通のことになればいいなと思っているんです」

7月7日、青鳥特別支援学校ベースボール部は、1回戦で散った。

「0対66という大敗でした。この5月から野球を始めた選手が3人いるこのチームで大切にしてきたことは、技術の向上よりもまず精神的な部分をひとつにしていくことです。たとえば私は普段、生徒たちに対して『仲間のプレーに声を掛けていこうね』と話しています。試合中、チームがそうしたことをきちんと意識してやっていたと思うので、次につながる第一歩を踏み出せたと私は評価しています」

そう話す久保田監督の表情はどこか晴れやかだった。天井のない広大な球場では、鋭い打球が天に向かってまっすぐに伸びる。その愚直さが、子どもたちの可能性を信じて一心不乱に遮るものを取り払った久保田監督の挑戦に重なって、夏の記憶に溶ける。


取材・文/黒島暁生