母に謝罪され、怒りをぶつける 

白石さんがゆっくりと回復に向かっているころ、カウンセリングの効果が出てきたのか、母親も変わりつつあった。

リビングで母と2人コーヒーを飲んでいるとき、母親にこう言われたのだ。

「昔、あなたのことをよく叩いていたのは、虐待だったわね。お母さんが悪かったわ。ごめんなさい。あなたのことを人形みたいに、自分の所有物のように思っていたのよ」

写真はイメージです。画像/shutterstock
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謝罪の言葉を聞いて、白石さんは溜まった怒りを吐き出すことができたという。

「やっぱり昔は憎しみが強かったから、なんであんなに当たり散らされなきゃいけなかったのって、すごい怒りが止まらなくて……。母を恨む気持ちもありますよ。

でも本当に放り出されたことは1度もなかったし、私を見捨てなかった。愛情は深い親だったというのはわかるので、親を愛する気持ちもあるんです。両方が混在していて。ホント、感情って複雑ですね」

それ以来、母親とさまざまなことを話すようになり、母の置かれた事情や時代背景も理解することができるようになったそうだ。

「母も孤独だったんですね。頼れる親も友だちもいない場所で子育てして、社宅だから他の子とも比べられて、ストレスは相当強かったと思います。だから、私たちにきつく当たったのかなって」

写真はイメージです。画像/shutterstock
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自分の気持ちを言葉にできるよう表現力も磨いた。それまで、ほとんど育児に関わってこなかった父親とも退院後は話すようになったのだが、「お父さんも人が怖いぞ」と軽く言われたので、こんな風に説明をした。

「私の怖さっていうのは、相手が目の前で包丁を持って立っていて、危害を加えてくるぞと体中から汗がブワっと噴き出してきて、体温が下がってお腹が痛くなるくらいの怖さだよ」

それを聞いて父親は深刻さを理解し、謝ってくれたという。

「2人とも、『残りの人生は咲良のサポートに使いたい』と言ってくれて、すごく幸せです。もうホント、見る景色、ファインダーが全部丸ごと変わったような心地ですね」