「危害が人身に及ぶ可能性もある」

ただ、戦後日本はその問題をスルーした。米国が日本統治のために天皇の責任を問わないと決め、東京裁判でも主役であったはずの天皇を戦争責任の外側に外してしまった。天皇制存続を願う日本の支配層もそれでよしとした。

だから、僕たちは戦争責任を自分たちの手で解明することができないまま、曖昧な形でその問題を処理してきた。

そのことが、日本の民主主義にとってどれだけマイナスであったか。日本の安全保障が米国におんぶに抱っこだったのも、根源はそのあたりにあるのではないかと僕は疑っていた。

いずれこの問題はテレビメディアで取り上げたいと思っていたが、この異様な自粛ムードのなかでこそ、その問題提起が有効になるのではないかと思いついた。

さっそく僕は行動を開始した。まずは「朝生」担当プロデューサーの日下雄一に相談した。「テレビが天皇制の是非や天皇の戦争責任について真っ向から論じたことは一度もない。タブーになっていた。そのタブーを破ることこそがこの『朝生』の役割じゃないか」と。天皇を取り上げようぜ、と。

ところが、あらゆるタブーへの挑戦に積極的だった彼が、珍しく躊躇した。

日下の話が届いたのだろう、編成局長の小田久栄門が僕を呼んでこう言った。

「田原さんの企画なので実現させたいが、いまこの自粛の最中に天皇論議は無理です。危害が人身に及ぶ可能性もある。いかに僕でも了解するわけにはいかない」

小田もテレビマンとしてはなかなかの侍だった。僕はこう返した。

「私なりに局に迷惑をかけずに番組を成功させる自信がある。ぜひ任せてほしい。……ただ、そうは言っても小田さんは信用しないでしょう。いいですよ。天皇論をやめて他のテーマでやりましょう。しかし、深夜の5時間の生放送です。

仮に途中でテーマを切り替えても、小田さんにはどうしようもない。私は小田さんを裏切ります。しかし、結果として問題なくやります。視聴率も高く評判もいい。そういう番組として成功させます。

万が一、小田さんが危惧するような問題が起きれば僕が全部責任を取ります。頼みます。騙されてください」

〈田原総一朗“朝生”事件簿〉「お前ら、テレビをなめてんのか?」天皇制という“タブー”に切り込んだ放送回、CM中にスタジオに下りてきたプロデューサーが出演者を一喝して…_2

1時間くらいやりとりしただろうか。結局小田は騙されることを拒否しなかった。

それから数日後、日下と打ち合わせした。最初のテーマを何とするか。どの段階で天皇論に入っていくか、細かく話し合った。