美容室倒産の最大の理由は開業準備不足

東京商工リサーチの調べによると、美容室の倒産数が急増しているという。

2024年1月から4月の間に美容室の倒産件数が全国で46件に達し、前年同期と比べて48.3%増加。現在のペースが続くと、年間でもこの10年間で最多だった2019年(105件)を上回る可能性が高い。

コロナ5類移行後は来店客数も徐々に回復していたが、水道光熱費、美容資材の価格高騰や人件費上昇が収益を圧迫し、倒産が増勢に転じていると東京商工リサーチは分析している。

「美容師の雇用形態は大きく分けて、サロンに所属する直接雇用と、フリーランスの業務委託があります。報酬を提示してスタッフを募集する業務委託サロンでは、フリーランスの美容師を引き寄せるために高い歩合率や好条件を広告に載せることが多く、その結果全体的に人件費が高くなります。そのためより高い売上が必要になり、経営が厳しくなってしまうのです。

一方、雇用サロンではそうした高い給料ではなく安定した労働条件の募集が多く、もらえるお金の多さに惹かれて業務委託サロンに人材が流れてしまうことで人材不足に陥ってしまう傾向があります」

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雇用型サロンと業務委託型サロン、どちらも苦しい事情があるようだ。

しかし美容室の倒産が増加する理由としては、他にも大きな要因があると中嶋氏は分析する。それは独立・開業・経営に対する美容師の知識不足だ。

「多くの美容師は、経営の知識を得る機会がないまま独立を目指してしまうのが実状です。美容室のような来店型サービス業は、お客さまに来てもらうことが前提のビジネスなので、経営の知識がない状態で多額の借金をして店舗を持つのは非常にリスクが高いんです。

26万件を超える熾烈な競争状態にある美容業界。『夢の実現のために自分のお店を』『オープンしてから頑張ろう』で生き残れるほど甘くはありません。オープンまでにどれだけ準備が出来たのか。『おしゃれな店を作りたい』『コンセプトにこだわりたい』という考え方を優先し勝つための準備をせずにオープンしてしまったことが、今の倒産数増加の大きな要因につながっていると思います」

美容室が過去最多ペースで倒産、もう技術だけではやっていけない時代に…チェーン店は労働環境改善に取り組むも、個人経営店の行く末は…_2

美容師の独立は、美容学校を卒業してから店舗で10〜15年の経験を積んでから踏み切るのが一般的である。独立の理由の多くは、「このままこの店にいても将来が見えない」というものだ。

「一般的に美容師は、サラリーマンのように必ずしも年齢とともに収入が増えるわけではないので、将来の展望が持ちにくい職業です。結婚や住宅購入など人生設計を考える時期でもある30代前後の美容師は、『このままここで働き続けていいのか』と人生設計の悩みに直面し、独立に踏み切るケースが多いんです。

独立を決意した相談者のみなさんが口を揃えておっしゃっているのは、『以前働いていたお店のようにはしたくない。スタッフにはきちんとした環境を作ってあげたい』というもの。以前の職場の労働環境や給料に対して不満を抱いている方が多いのですが、どのように環境を改善すればいいのか、十分に理解できてないまま独立を目指す方も多いのも実状です」