自分の辛い経験が役に立つ

ボランティア活動などを経て、27歳で社会復帰をする。一般の会社に障害者枠で雇用され、事務仕事をこなした。仕事をしながらカラダを鍛えて、薬をゼロにすることもできた。

ところが、30歳のころ急激に精神状態が悪くなる。

竹内さんは端正な顔立ちで気配りもできる。仲よくなった女性がいたのだが、彼女との関係で悩むようになったことが引き金だった。

入退院をくり返し、一時は医者も「もうよくなることはない」とあきらめたほど悪化したが、驚異的な回復を遂げた。

「主治医の言葉をそのまま引用すると、『君には後ろ盾になっている強い神様なような存在がいるんだと思う』と。とても精神科医の言葉とは思えないけど、それ以外に考えられないと言われたんです」

仲よくなった女性との関係にも悩んだという竹内さん。スタイルもシュッとしている
仲よくなった女性との関係にも悩んだという竹内さん。スタイルもシュッとしている

退院して地活にまた顔を出したら、地元で精神疾患の経験専門家養成講座が始まったことを知った。薬の飲み方を工夫して朝起きられるようになっていたので、竹内さんは思い切って3か月の講座を受講。2022年3月に修了後、経験専門家として活動を始めた。

精神疾患の患者の中には、以前の竹内さんのように家にひきこもっている人もたくさんいる。

保健師が「当事者の家を訪ねてドアを叩いても返事もしてくれない」と嘆くのを聞いて、竹内さんは「私もそうでしたが、それをありがたいと感じるのは、10年、20年後、その人が外に出た後だと思いますよ」とアドバイスした。すると、保健師はホッとした表情を浮かべて、「それを聞いて仕事に戻れます」と言った。

「支援する専門家も心折れるんだと思います。何度行っても会ってもらえないと、こんなことをして何の意味があるんだと感じるみたいです。

私が外界をシャットアウトしていたときも、先生や友人など何度もドアを叩いてくれた人がいました。当時はドアを叩かれるのは苦痛だったけど、今はドアを叩いてくれた人たちにお礼を言いたいです。その後、病んだことで福祉にもつながることができた。そういう、たくさんの善意の人たちに出会わなかったら私はここにいないと思うから、自分にできることは何でもやろうと思っています」

写真はイメージ。画像/shutterstock
写真はイメージ。画像/shutterstock

当事者と経験者がお互いに支え合うピアサポートと呼ばれる活動にも取り組んでいる。昼夜逆転に苦しむ当事者に会ったとき、竹内さんが自分の経験を踏まえて「昼間に何もしないでいたら自責の念が生まれて昼夜逆転してしまった」と伝えると、その当事者は腑に落ちたのだろう。「昼間やることを決めて必ずやるようにしたら、長年苦しんだ昼夜逆転から抜け出せた」と後日報告してくれた。

「“竹内さんのおかげです”と感謝されて。小さなことかもしれないけど、僕が経験してきたことが役に立つんだなあと思って、うれしかったですよ」