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あなたがなんとかしてくれるのか

ファミリーレストランの席で私の隣に座った望月宣武(ひろむ)弁護士の携帯電話から、絶叫に近い女性の声が漏れてくる。

「暴力受けて、ものを壊されて、家族らしい生活をできない。私たちはどうなるんですか!」
 
同じフロアの向こうには、不登校やひきこもりを支援するというA塾から脱走してきたばかりの10代の少年が、うなだれるように座っていた。女性は少年の母親で、「少年が家に戻りたがっている」と伝える望月弁護士に激しく反発している。

「暴力、暴言、一歩間違えば誰か死にます」
「あなたが息子を立ち直らせてくれるんですか」

店内に客の姿は少なく、母親の声は電話ごしにもかかわらずかなりクリアに響いた。

「あなたがなんとかしてくれるんですか」ひきこもり、不登校、家庭内暴力に翻弄される家族の叫びのかたわら、拉致同然で入れられた支援センターから脱出し自死を選んだ少年もいる現実_1
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関東に住む少年のもとにA塾のスタッフ数人がやってきたのはこの日から2カ月前の2021年12月のことだという。

少年の不登校と家庭内暴力に手を焼いた両親が相談し、少年は「いきなり部屋に入ってきた男たちに手や足をつかまれて車に乗せられ、施設に連れてこられた」と話した。事実であれば、少年もやはり拉致同然に連れ出されたことになる。

少年はその後、施設内で自身のスマホを使って検索し、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」を見つけ出して連絡してきた。

そして「すぐにここを出たい」と訴え、家族会から依頼された望月弁護士が、少年を保護するために塾がある都内の住宅地にやってきたのだ。私はKHJ副理事長でジャーナリストの池上さんにお願いをし、取材のため同席させてもらえることになった。

日中、散歩を装って寮を出た少年は、望月弁護士らと待ち合わせ場所の公園で合流し、近くのファミレスに移動した。そこで少年の母親と電話で話したのだった。少年からもこれまでの経緯を聞きとり、今後の方針を話し合った。

「いまから二つのことをやります。君が連れ戻されないようにすること。そして、荷物をA塾から取り返すこと……」

望月弁護士の話を聞くうち、うつむいて不安そうだった少年も、落ち着いてきたようだった。