世界王者になっても「どアウェイ」
これまで岡山県の小さな会場で戦ってきた阿久井だが、前戦の世界戦は収容人数5000人ほどの大阪エディオンアリーナで戦った。次戦の東京ドームは最大5万人規模の会場となるが、「会場はあまり気にならないかな」という。
「東京は好きですよ。でも言うたら“どアウェイ”ですからね。世界王者になっても、僕はどこ行っても実質Bサイド(脇役)でしょ」
今回も前戦と同様、王者である阿久井が相手選手所属の大橋ジムの興行に“お呼び立て”され、東京で戦う。
「まあ、会場はどこであろうが、自分は勝つだけですけど」
岡山のジム所属で初めての世界王者となった阿久井は〝地方の星〟だ。しかし本人は、決して地方ジムを薦めているわけではないという。
「いろいろ苦労はありますよ。だってよく考えてくださいよ、世界王者になったからってジムが力を持つわけでもないし。そんなの誰がオススメするんですか」
珍しく語気を強めて言う。
「大きな舞台で試合をさせてもらうことにはすごく感謝しています。でもそれとは別に、初防衛戦がアウェイで相手の興行でリベンジマッチを受けるって、ねえ……なかなかないでしょう。簡単に『地方に残って頑張れ』とか言えないですよ」
しかし、所属する倉敷守安ジムを選んだことにもちろん後悔はなく、むしろ感謝がある。前回の桑原戦後にこんなエピソードがあった。
試合後にホテルで休んでいると、ドアのノックが聞こえた。開けると会長が立っていて、「これ」と言って封筒を手渡し、すぐに戻っていった。なかをみると一万円札の束が入っていた。
ジムの経営がラクではないことを知っていた阿久井は、少しこみ上げるものがあった。
「感謝してますし、環境のせいにはできないですよ。結局、自分しだいじゃないですか」