食中毒への対策と東京オリンピック開催に合わせた法改正

法改正により設けられた営業許可の内容は、国際水準に則った厳格なものであり、厳しすぎるとも囁かれている。ここまでの水準を農家に迫る理由について、松平氏は2つの理由を説明する。

「ひとつめは、塩や調味液で短時間、漬けた浅漬による食中毒が起きていたこと。実は浅漬による食中毒というのは定期的に発生していまして、なかでも2012年に北海道札幌市にて発生した集団食中毒事件は、発症者169人、死亡者8人する事態にまで発展しました。こうした事件が契機となり、漬物を製造する衛生基準の見直しが国で審議されるようになったと聞いています。

ふたつめは、東京オリンピックを開催したこと。オリンピックに合わせて、食品加工も国際的な水準に合わせるべきという議論が国内で進み、そこで国際的な衛生水準であるHACCPに準ずることになったことが指摘されています」

2020年東京五輪、パラリンピックのメイン会場となった新国立競技場
2020年東京五輪、パラリンピックのメイン会場となった新国立競技場

食中毒への懸念と国際化への対応が背景にあるワケだが、規制する漬物の線引きがあいまいだと松平氏は苦言を呈す。

「食中毒の原因の多くは浅漬によるものですが、そのほかの種類の漬物も一律で規制されてしまっているのが問題です。漬物には浅漬以外にも、たくあんなどの糠漬をはじめ、みそ漬、粕漬、酢漬、塩漬、醬油漬など多くの種類があります。なかには、長期保存が可能で食中毒を引き起こしにくい漬物もあるのですが、浅漬と塩分濃度や漬け込む日数の区別がつきにくいことから、漬物全般が規制対象となってしまっています」

一方で近年では減塩ブームが進んでおり、市販の漬物の塩分濃度が低くなり、漬物による食中毒のリスクが高まっているというのも事実だろう。

「しかし、それでもこの線引きは、国のほうでしっかりと議論がされていなかったことが指摘されていまして、行政ニーズで改正が進んでしまった印象がありますね」