「卒業」はキャリアを重ねることに、自分を重ねるように
――斉藤さんの「卒業」をはじめ、日本のポップス史を振り返ると、いわゆる「卒業ソング」というものがたくさんあって、しかも長く聴き継がれている曲が多い印象です。それはなぜだと思いますか?
うーん、なんででしょうねえ。やっぱり、別れの美学が私たちの文化の中に根強くあるからなんじゃないでしょうか。今の時代、卒業式で長いお別れをするみたいな感覚は薄いかもしれないけど……。
――卒業式の翌日以降も友人たちと変わらずネットで繋がっていられますからね。
そう。でも、心の奥底にはそういう別れという出来事への深い情感が変わらずにあるんだと思います。だから大勢の人たちに刺さるのかもしれませんね。
――斉藤さんは、デビュー曲の「卒業」を長く歌ってこられて、2021年のアルバム『水響曲』ではアレンジを変えてセルフカバーもされています。今、斉藤さんにとって「卒業」という曲はどんな存在なんでしょうか?
聴いてくれる方の今の気持ちに寄り添うというよりも、その時代の自分を思い出してもらうために歌っているという意識が強いですね。それは私自身もそう。「卒業」を歌っていた当時の若くてたどたどしかった自分を思い出すと同時に、聴いてくれる方にも、例えば、受験生だった自分とか、部活動で頑張っていた自分とかを思い出してもらって、今までの人生を回顧してもらえればと思っているんです。
――一方で、「卒業」は今の若い世代にも刺さる歌だと思いますよ。
私のライブにもときどき20代の若い人が来てくれます。もちろんうれしいんですけど、あんまり彼らを意識しながらは歌ってはいなくて(笑)。シティポップブームで私の曲をいいと言ってくれたりする人もいるんだけど、正直、「なぜだろう」って感じです(笑)。
これくらいの年齢になると、やっぱり先行きのことを考えるんですよね。残りの時間でどう過ごしていくかを考えることのほうが私にとってはずっと身近なことだし、そうすると、自然と過去のことも回顧するようになるんです。
――卒業式を経て、期待と不安を抱えながら今まさに新生活に踏み出そうとしている方も多いと思います。最後に、そういった読者へ向けてメッセージをいただけますか?
結構いろいろなところでも喋っていることなんですけど、私のすごく好きな言葉に「人生は壮大なひまつぶし」っていうのがあって、それを伝えたいですね。
一明源さんの本のタイトルになっている言葉なんですけど。その本で言われているように、節目や大きな変化ということにとらわれすぎないで、自分に起こる変化をおもしろがって、自由に振る舞ってほしいなと思います。
どんな選択をしたとしてもその先になにが起こるかなんて誰にもわからないんだから、どんな決断だってすべて正解なんだし、その中で頑張ってみればいいんだということも書かれていて。すごくらくちんだし、とても素敵な考え方ですよね。
取材・文/柴崎祐二