独立独歩か、寄らば大樹か
医師が辿っていく人生にはいくつもの道がある。大学の医局に所属していると、将棋の駒のように扱われることもないわけではないが、最終的には自分の意志が自分の進路を決める。
収入の多寡だけで、生き方を決める人はあまりいないのではないか。最終的にはやはり生き甲斐を何に求めるかによってその人の人生が決まるのだから、開業医と勤務医の収入を比べることに、ぼくはあまり多くの意味を見出すことはできない。
独立独歩で生きたい人は開業医になればいい。自己責任である。寄らば大樹の陰で、安定と堅実を好み、そして難しい病気にも挑戦したいならば勤務医の方がいいということになる。
確かに贅沢な生活をしている開業医もいるようだ。しかしぼくは開業医になって収入が増えたものの、ライフスタイルは何も変わっていない。100均も利用するし、カードに貯まったポイントも精いっぱい活用している。スーパーで食材を買うときも、値引きされたものに手が伸びる。
月並みな言い方になるが、お金だけが人生じゃないし、天国までお金は持っていけない。ただ、老後の不安はちょっと解消されたかな。この国に住んでいると老後はちょっと不安だから、それはよかった。
あのまま大学で働き続けていたら、経済的にかなり苦しかったろう。大学病院は労働に見合った賃金とか、ワークライフバランスとか、まだ一向に改善されていない。2024年4月から開始される「医師の働き方改革」が本当に実効性があるものになるかはまだ見通せない。
自分の受け持ち患者が病棟に入院しているのに、週に1回アルバイトに出かけるって、ちょっと異常だと思う。
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