非正規雇用が多くの若者を苦しめてきた
パート・アルバイト・有期契約・嘱託社員・派遣社員など、様々な形態がある「非正規雇用者」ですが、平均年収は決して高くありません。
国税庁の「民間給与実態統計調査」(令和3年版)によると、非正規雇用者全体の平均年収は198万円(正規雇用者全体の平均年収は508万円)ですが、そのうち男性は平均年収267万円(正社員は545万円)に対し、女性の非正規雇用者の平均年収は162万円(正社員は302万円)です。この数字は決して現代日本社会で生活する上で十分な金額とは言えません。
1986年に施行された男女雇用機会均等法で、正社員として働く女性は増え、「おひとりさま」人生を選択できる女性は増えました。
しかし、同時に雇用が不安定な非正規雇用者も、これ以降増加していくのです。男女雇用機会均等法施行と同年にスタートした労働者派遣法は、当初の「一部の限られた技能を持つ13業務」から、1996年には「26業務」に拡大し、1999年には「26業務以外も可能」になりました。従来の日本型雇用では、若い女性たちも正社員として企業は雇用してきましたが、そうした職能は派遣社員などでも代替可能でした(もっともそれまで正規雇用されてきた女性たちも、20代半ば頃には寿退社することが暗に求められていましたが)。
2000年以降に、非正規雇用者が続々と生まれるのと時を同じくして、日本社会において格差が広がり始めました。企業から、「期間限定」「いつでも契約を切れる」安易さを理由に非正規雇用された若者たちは、目の前の「単純作業」をこなすだけの日々で、「仕事上のステップアップ」や「ボーナスや福利厚生」もなく「給与アップ」も「昇進」もないまま、人生でひとところに留まり続ける長期の足踏みを余儀なくされたのです。その中には大量の女性たちもいました。
本来なら、近代社会になり、仕事を持つ女性が増えることで、日本でも「親や夫に依存しない人生」を選ぶ女性が増えるはずでした。しかし、日本経済の停滞と同時に広がったこの非正規雇用という〝新しい雇用形態〞が多くの若者の人生設計を狂わした、と述べたら言いすぎでしょうか。
欧米でも「職の二極化」が起こり収入格差が広がりましたが、欧米ではそれ以前からすでに女性の社会進出が当然のこととなっていました。しかし日本では、男女雇用機会均等法で正社員で働き続ける道が開けたのと同時期に非正規雇用化が進んだのは、皮肉としか言いようがありません。
男性の非正規雇用者は、「自分の所得では妻子を養うことはできない」と自信と希望を失い、女性の非正規雇用者は、「やはり夫は正社員でないと、将来において生活がままならない」実感を強め、より人生が豊かになる「結婚」でなければ、しない方がマシだと思うようになりました。結果として、「未婚」状態に置かれる若者が増大していったのです。