「食の欧米化が病気の原因」という言葉にだまされている!
そもそも「食の欧米化」とはどのような現象を呼ぶのでしょうか。うっかり納得してしまいそうになる耳触りのよさはわかりますが、日本食が欧米でブームになったからと「食の東洋化」と言うでしょうか?「食の欧米化」の実態は明らかになっておらず、少々乱暴な概念ではないかと感じています。
「食の欧米化が生活習慣病の要因だ」という話は、少なくとも私が医者になった20世紀末頃には言われていました。学会の講演のスライドにおいて、ロナルド・マクドナルドやカーネル・サンダースが「Wanted!」と指名手配犯ばりに悪者にされていました。ただしこの場合、ターゲットは米国の食文化です。欧州の影はありません。
では、この25年間で日本において食の欧米化は進行したのでしょうか? それとも後退したのでしょうか? 誰も回答を出そうとしていません。なぜなら数値化できないからです。
たとえば、食事における脂質のエネルギー摂取比率の増加を欧米化の指標と考える人もいるようですが、そうであるならば、この25年で日本においては食の欧米化は後退しているか横ばい、という見解が出るはずです。脂質のエネルギー摂取比率はわずかに落ちているか、ほぼフラットだからです。
それなのにその間に糖尿病患者数は増え続けているのですから、「食の欧米化が生活習慣病の要因」という概念はとっくに消え失せていいはずです。
食の欧米化が日本人に悪いことをもたらすという概念は、ある種の麻薬です。それは、「本来の日本人の食事=和食」は極めて健康的であるという概念を背景にもっているので、日本人全員に快楽をもたらすのだと思います。
それは医療従事者であっても同じです。食の欧米化という概念を数値化し、その数値の変動と様々な生活習慣病の有病率、あるいは発症率の変動との関係性を検討するという、本来、医療従事者がなすべき検討を誰もしないまま、ただ気持ちがいい概念なので、盲目的に受容し、専門家として発信しています。