危険な管理不全マンションの現状

全50戸のうち現在はちょうど半数の25戸が埋まっており、内6戸には部屋を自ら所有する住人が、そのほかは賃貸入居者が暮らす。木村さんは管理組合の総会のお知らせを全国に散らばる区分所有者全員に毎年送付するが、出席率は低い。

居住していない所有者は特に建物への関心が薄く、中には管理費を滞納している人もいる。ここから管理費・修繕費の値上げは望むべくもない。1階に住む70代の住人は「年金暮らしで手いっぱいで、とてもじゃないがこれ以上お金を出すことはできない。エレベーターが動かないと上の階の人は困るだろうけど、とりあえず自分は今困っていないから……」と本音を漏らす。

入居当初は修繕積立金なんてなかったのに…都内マンションの17.4%に管理不全の兆候があるという衝撃_4
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木村さんに管理を依頼する住人がいたということは、マンションの状況に危機感を覚えている人はいる証左だ。しかしそれ以上に積極的な姿勢は見えてこない。住人同士の交流はほぼなく、取材中に行き合う人にあいさつをしても返ってくることはなかった。カメラを持って生活空間に入り込んできた人間に対する警戒心と同じくらい、自室の外で人とコミュニケーションをとりたくないという思いを感じた。

木村さんも80歳になり、日々の管理作業が体に響くようになってきた。いつまでこの業務を続けられるかわからない。

「管理不全マンションの現状はこんなに危険なんだと、たくさんの人にわかってもらいたい。これからこういうマンションはどんどん増えていきます」

そう訴える声は切実さを帯びていた。



図/書籍『老いる日本の住まい 急増する空き家と老朽マンションの脅威』より
写真/shutterstock

#1 なぜ日本では住宅の中古市場が育たないのか

老いる日本の住まい 急増する空き家と老朽マンションの脅威(マガジンハウス新書)
入居当初は修繕積立金なんてなかったのに…都内マンションの17.4%に管理不全の兆候があるという衝撃_5
2024/1/25
1,100円
248ページ
ISBN:978-4838775224
2023年10月1日と8日の二夜にわたって放送された『NHKスペシャル』「老いる日本の“住まい”」全2回を、番組の反響を受けて緊急書籍化。人口が減少していく日本各地において、日に日に深刻な社会問題化していく空き家と、好景気時に建てたマンションが住民とともに老朽化、放置されている問題の2点を取り上げる。

不動産価格の高騰やタワマン建設ラッシュの陰でじわじわと進行する「空き家」と「老朽マンション」は、もはや人口の問題と並行として他人事ではないレベルで私たちの前に突き付けられた課題となっている。現状のリポートに加え、日本人の住まいに対する価値観の変化、これらがもたらす社会の未来予測についても番組の丹念な取材をもとに掘り下げる。巻末の付録として、専門家監修による「老いる住まい」への具体的な悩みに応えるQ&Aも収録。問題の解決に向けた第一歩につながるようにも活用できる一冊。
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