天井が割れ、鉄筋がむき出しになった階段

管理不全が進むマンションではどんなことが起きるのか。東海地方にある築38年のマンションを訪ねた。

大勢の利用客で賑わう最寄り駅から10分も歩かないうちに建物が見えてくる。5階建てのどっしりとした外観はごくありふれたマンションのようだが、近づくと徐々に状態の悪さが伝わってきた。外階段には雨だれの跡が濃く残り、日当たりが良いはずなのにエントランスはどこか薄暗い。敷地内にはお菓子の袋のごみが捨てられている。

「これはクラックですね。コンクリートは長年経つとひび割れが出てくる」

マンション管理士の木村幹雄さんがそう言って指差す先には、大きな裂け目があった。マンションの工法として多用される鉄筋コンクリートはメンテナンスが行き届かないと中の鉄骨がさびて膨張し、覆っているコンクリートを押し出して破裂させる。

そうしてひび割れた箇所から雨水が侵入し、ますますさびが進む悪循環に陥ってしまう。このマンションでは外壁のあちこちにひびが入り、住人が行き来する階段の天井部分も大きく割れていた。

「鉄筋がむき出しになっていますね。頭なんかに落ちますと怪我をすることもあって非常に危ないです」

床を這うひびに沿って水分が染み込んだ共用廊下を進むと、木村さんが「見てもらいたい」というエレベーターがあった。灰色の機体は全体にさびが浮いて汚れ、床と接する部分は欠けている。破片が辺りに散乱していた。

「エレベーターは年に一度、必ず法定点検をして整備しないといけないんですが、やっていなかった。非常に危険な状態だということで止めています。もう7〜8年は動いていないですね」

建物ができた当時、この地域ではエレベーター付きのマンションは珍しく、人気の物件だった。売り出し時のパンフレットを見せてもらうと「独身ヤング向けの快適なワンルーム中心」と時代を感じさせるキャッチコピーが躍っていた。

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「修理もしようがなくて取り換えないといけないんですが、そんなお金はない」と木村さんはこぼす。取り換え工事の見積もりは1600万円。ほかにも外壁の補修や塗装工事が2500万円、屋上の防水工事が450万円、給水システムの改修工事は240万円と、すべての箇所を直すには計5100万円程度かかるといわれている。だがこのマンションでは修繕積立金を一切集めておらず、そうしたことを取り仕切るはずの管理組合も長年存在しなかった。

7年前に住人から依頼を受けて木村さんが管理を請け負ったときは、下水のタンクが壊れて建物内に悪臭が漂っているような状況だったという。その後ようやく管理組合ができ、管理費の中から少しずつ積立をして水道や電気など生活に欠かせないインフラ部分を優先して修繕。今日までなんとか維持してきたが、大規模な修繕には程遠い。