西洋とは異なる国境線の捉え方

そもそも、中東エリアでは「国」という考え方も我々とは違う。ここでは、国境線は「後にイギリスやフランスによって引かれたもの」という面があるのだ。

「現在のアラブ諸国とトルコに当たる部分はイスタンブールに首都を置くオスマン帝国という一つの大帝国の支配下にありました。この帝国が崩壊してトルコという国が生まれ、アラブ諸国の多くがイギリスやフランスの支配下に入りました。それは第一次世界大戦後のことです。日本の元号でいえば大正時代。その頃の記憶がいまだに鮮明なのは、当然でしょう。イスラム教徒の国家としての一体感を人々は覚えています」(高橋氏)

ちなみに同大会において、韓国は日本よりもひどい状態にある。1勝2分、グループリーグで合計6失点だ。格下のはずの中東勢バーレーンとイスラム圏マレーシアを相手に引き分けという失態を演じ、国内では大批判が巻き怒っている。まんまと「中東勢」と「イスラム圏」にカタールの地でやられているのだ。

「中東の国々は、同じ中東の国での試合では、落ち着いた気持ちで試合ができるという感覚は強いと思います。国同士で仲間内意識があるからです。まず自分の国のチームを応援して、そのチームが敗退すれば、次は近隣のアラブ諸国のチームを応援するのが普通でしょう。そして政治的に苦しい状況にあるパレスチナは皆が応援しています」(高橋氏)

カタール ドーハ - 2023年12月9日 – ガザの住民への支持を表明するためのカタールでの連帯デモ 写真クレジット
カタール ドーハ - 2023年12月9日 – ガザの住民への支持を表明するためのカタールでの連帯デモ 写真クレジット

つまりカタールでのアジアカップでアラブ・中東・イスラム教圏の国と戦う場合、すべての条件においてアウェイともいえる状況で、戦うことになるのだ。同じカタールの地での大会でも、欧州勢を撃破した2022年のワールドカップとは違う。

また、試合ごとの審判団の配分も隠された注目ポイントだ。本来ならば当然のごとくFIFA(=世界サッカー連盟)が決めた「第三国の審判が笛を吹く」というルールがある。が、欧州など他大陸からの審判団が派遣されていない今大会では、アラブ・中東・イスラム圏対それ以外の国の対戦において、前者の主審が笛を吹く試合がある。日本が敗れた19日のイラク戦もサウジアラビアの主審がジャッジを務めた。

今夜のバーレーン戦を含めて、「アラブ・中東・イスラム圏」との戦いは避けることができないのだ。

今大会は本来、韓国での開催が有力視されていたが、すんでのところで経済発展著しいカタールにかっさらわれた。この地域の連帯感は、今後も日本代表を苦しめることになるだろう。「アジアはけっして楽ではない」と自覚し戦っていくしかない。

カタールの地での日本代表の健闘を祈ろう。

解説/高橋和夫
取材・文/吉崎エイジーニョ 
写真/shutterstock