アラブ・中東・イスラムの概念

まずは狭い範囲の概念から、「アラブ(国家)」についてだ。

「アラブ人の定義は込み入っています。ここではわかりやすく『アラビア語を生活の言語にしている人々』としましょう。アラブ人が多数派の国が世界にはエジプト、イラク、クウェート、カタールなど21か国あります。

さらにパレスチナを国家と考えれば22か国になります。今回のアジアカップに出場しているパレスチナを国家として認めている国もあれば、認めていない国もあるので解釈が微妙ですが。要注意なのが『アラブ=イスラム教徒』ではないということ。アラビア語を生活言語にしている人々のなかにもキリスト教や他の宗教を信仰する人たちがいます」(高橋氏)

アラブ国家連盟、アラブ22カ国の国旗がアラブ国家連盟の旗と空に波紋を描く
アラブ国家連盟、アラブ22カ国の国旗がアラブ国家連盟の旗と空に波紋を描く

この次に広範囲な地域を指す概念が「中東」だ。

「現在は中東という言葉に、イラクやヨルダンのような西アジアの国々に加え、イスラム教教徒のアラブ人が多数派のエジプト、スーダン、ソマリア、チュニジア、リビア、モロッコ、モーリタニアなどの北アフリカ諸国も含まれる場合が多いです。中東・北アフリカという言葉も使われます」

ここでも要注意ポイントがある。

「中東とアラブはイコールではありません」(高橋氏)

中東の非アラブ国として、トルコとイランが挙げられる。これは「言語の違い」によるもので、トルコはトルコ語、イランはペルシャ語を生活言語に使うからだ。

そして最も広域に渡る概念が「イスラム圏」だ。

「イスラム教徒が多数派の地域という考え方で、前出のトルコやイランはもちろん、東南アジアのマレーシアやインドネシア、ブルネイもイスラム圏に含まれます。そして南アジアのパキスタン、中央アジアさらにはコーカサスのアゼルバイジャンなども含まれるでしょう」(高橋氏)

そのほか、イスラム教徒が多数派の都市や地域では、フランスのマルセイユ市、中国西部の新疆ウイグル自治区、米国ミシガン州ディアボーン市などが知られる。

これらの概念の地域での連帯感は、日本が中国や韓国で試合をする際にはなかなか持ち得ない感覚だ。

そこをホームに近い場所とは決して思えない。

逆に中韓開催の国際大会では、開催国との対戦ではなかなかに強烈な出来事が起きてきた。韓国では「歴史を忘れた民族に未来はない」という横断幕がサポーター席に掲げられたり(2013年東アジア選手権)、中国では日本の国歌斉唱の際に大ブーイングが起きたり(2004年アジアカップ)する。

先の戦争が招いた近隣諸国との軋轢がある日本との感覚とはかなり違う、アラブ・中東・イスラムの一体感。よく語られる「中東の笛」のメカニズムもここにありそうだ。