被害者の父親も裁判のやり直しを求める
朴被告の主張はこうだ。
事件当日、佳菜子さんと1階の寝室でもみあいになり押さえつけるなどした後に、佳菜子さんが包丁を持っていたことから、子どもを抱えて2階の寝室に逃げて閉じこもった。しばらくして、部屋から出て階段を見ると佳菜子さんがジャケットを手すりにかけて首を吊っていた。
一方の検察は、1階の寝室でもみあいになった際に朴被告が佳菜子さんを絞殺。証拠隠滅のために、佳菜子さんを2階まで引きずっていき、階段から突き落としたとしている。
自殺か、殺人か。直接証拠がないなか、遺体の発見状況など客観的な証拠に照らして全面的に争われたが、1審の東京地裁の裁判員裁判(2019年2月~3月)でも、2審の東京高裁(2020年7月~2021年1月)でも、朴被告による殺人と認定され、いずれも懲役11年が言い渡された。そして、朴被告は冒頭のように両裁判の厳粛な法廷で騒いだのだ。
「2019年の東京地裁での裁判で、裁判長が朴被告の主張について『説得力がない』と断じると、朴被告は『間違っている』とわめきちらし、2021年の2審でも『自殺の現実的な可能性はない』と判決が言い渡されると『おかしいよ!』『やっていないよ!』と叫びました。当初は精神的に参ってしまっているのかなと思いましたが……」(同)
通常ならば最高裁も高裁を支持して刑が確定する流れだ。しかし、朴被告のケースは異例ずくめの展開をたどった。
「一般的な殺人犯とは周囲の支援が大きく異なります。朴被告の実の母親が無罪を信じて4人の子どもの面倒を見ているほか、被害者とされる佳菜子さんの父親も『朴くんがやったとは考えられない』と裁判のやり直しを求めました。古巣の講談社も、殺人犯になった後も何年間も朴被告を社員で雇い続けた。朴被告の友人らも無罪を信じて、積極的に支援しています。さらに……」(同記者)
そして、朴被告にさらなる追い風が吹き、「重大な事実誤認の疑いがある」と最高裁が審理を差し戻すことになった。いったい何があったのか。
後編に続く。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班