誰かの価値観を否定しない街に
そもそも北九州市の新成人たちが身にまとうド派手な袴は、すべて「貸衣装みやび」という衣装屋がまかなっている。みやびは昨年、招かれたNYコレクションでショーを行い、喝采を浴びた。そのニュースを北九州市議会で話題にした武内和久市長が式典後にみやびの袴を羽織って報道陣の前に現れた。
「北九州市の若い人たちがコツコツ積み上げてきた、ド派手な袴という文化が世界に認められたのは素晴らしいことだと思います。誰かの価値観を否定しない街にしていきたいと考えており、この成人式はまさにその象徴だと思っています。もちろん袴だけが素晴らしいと言っている訳ではありませんが、ひとつの表現として、否定するのではなく応援していきたい。北九州市の若者たちの、多様性やエネルギーを大切にしていきたいです」(北九州市長・武内和久氏)
この日はとにかく人気ものだった市長、会場に散らばっていたマスコミが一気に集結するほど盛り上がりをみせていた。成人した娘を見守りにきていた母親も「市長は顔もイケメンだし、こうやって出てきてくれるのはとてもいいことですよね。若者が政治に関心を持つきっかけにもなるのでは」と好反応だった。
新成人として式典に参加した2022年度のボクシング全日本フェザー級新人王の岡本恭佑選手(九州国際大学)と2ショットも。
「世界にいきます。マスコミの皆さん、俺のこと撮っておいて損はないですよ。必ず世界にいきますので市長も応援よろしくです!」(プロボクサー・岡本恭佑)
2014年から成人式の警備にあたっているというガーディアン・エンジェルスの池田代表にも話を聞いた。
「コロナ禍になる前は、お酒を飲んで喧嘩してそのまま警察に連れていかれるという事案もあったのですが、近年はほとんどありませんね。目立ったトラブルといえば、去年墨汁の事件(新成人の振り袖に墨汁がかけられた事件、犯人は逮捕されている)があったくらいです。若者の自己表現の場がSNSに移っているからじゃないかなと思います。人と喧嘩して目立つより、映える写真で目立つみたいな。おめでたい場ですし、今年もトラブルなく終わることを願っています」(ガーディアン・エンジェルス・池田氏)
例年より目立ったのが女性のド派手な袴姿だ。式典の終わりがけに、付き合って半年のカップルにも話を聞くことができた。
「付き合って半年です、チューは恥ずかしかった(笑)」(カップル)
最後に、成人式をより盛り上げようと、今年から一般社団法人北Q100と貸衣装みやびが『成人式アートコレクション』を会場のすぐそばで開催した。ド派手な袴だけでなく、式典で輝いていた新成人たちをその場でスカウトし、ランウェイを歩かせるというものだ。
100万円かかったという龍の振袖をまとった女性のように、ド派手な袴姿の新成人ももちろん参加していたが、華麗な振袖やスーツの新成人もランウェイに登場し、会場を盛り上げた。イベントのコンセプト、「令和の北九州成人式はアートである」の言葉のとおり、ここまで多様な新成人が集う式典は世界でも珍しいだろう。
今年はコロナ禍のあとということもあり、例年よりも取材に詰めかけた報道陣が多かった。そして2024年はパリコレからも招待されているという、貸衣装みやび。海外で評価されていけばいくほど、さらなる多くのメディアが注目する式典になっていくに違いない。
よくあるヤンチャな成人式のひとつではなく、市長が話したように「多様性を認め合う成人式」の象徴になることを願うばかりだ。
改めて二十歳の皆さま、おめでとうございます。皆様のご活躍を心よりお祈りしております。
取材・文/集英社オンライン特集班
撮影/篠原祐介