700万種類を超える「ミニプログラム」の存在

ここで重要なのが、「スーパーアプリ」という言葉が持つ意味だ。

WeChatは、単に「さまざまなサービスが用意されている」というだけではなく、それらを利用するのにアカウントをそれぞれ作成したり、クレジットカード情報を登録したり、といった煩わしさがない。WeChatのメインアカウント1つで各種サービスにも自動的にログインされ、決済にもWeChatペイが使われる。これによって、はじめて使うサービスでもすぐに利用開始できる。

ネイティブアプリ(デバイスにダウンロードして利用するアプリ)のように、インストールやアカウント設定、決済情報の入力という手間が必要ない。展開されている多様なサービスをシームレスに利用できることこそが、WeChatがスーパーアプリと呼ばれる理由だ。

このような“アプリ内アプリ”ともいえる仕組みは、一般的に「ミニプログラム」と呼ばれる。

ミニプログラムはわずかな登録料でWeChat内に公開できるため、サービスを展開する事業会社としても参入のハードルが低い。また、開発コストはネイティブアプリの3分の1程度であるうえ、開発者も比較的確保しやすい。

そのため、多くの事業会社がネイティブアプリ開発からミニプログラム開発にシフトしており、その結果、現在WeChat内のミニプログラム数は700万種類を超えている。

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WeChatからは700万種類の「ミニプログラム」を呼び出すことができる(写真はラッキンコーヒーのミニプログラム)

事業会社がミニプログラム開発を志向するのは、コストの抑制だけが理由ではない。ミニプログラムのメリットとしては、「新規顧客を獲得しやすい」ことも挙げられる。

たとえば、あるカフェチェーンがモバイルオーダー会員を募って、業務プロセスの効率化とマーケティングを行いたいとする。その場合、日本であればネイティブアプリをリリースし、ユーザーにアカウント登録とクレジットカード入力を求める、といった手法が現在の主流になっている。

しかし、顧客がモバイルオーダー会員に登録する強い動機となるのは「店舗に行ったら長い行列ができていたが、並びたくない」という状況だ。

この場合、ネイティブアプリでは店頭でアプリをインストールし、アカウントや決済情報を入力する必要があるが、公共の場でパスワードを設定したり、財布からクレジットカードを取り出して番号を入力したりといったことは、多くの人にとって心理的にもハードルが高い。

一方でWeChat内のミニプログラムであれば、アプリを開いて、店頭の二次元コードをスキャンまたは検索で目的のサービスを探し出せば、すぐに注文ができる。便利さが、圧倒的に違うのだ。

加えて、WeChatはLINEとよく似たSNSサービスであるため、公式アカウントをフォローさせれば、その利用客にキャンペーン情報や優待クーポンを配信できるようになる。ユーザー側の利便性だけでなく、顧客の新規獲得や囲い込み、優待施策といった企業側の行いたい施策までもが、WeChatの中で完結するように設計されているのだ。