どうしようもないことだと諦めてはいけない
我々の世代は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界から称賛された時代を経験した。そのため、日本がインドネシアやマレーシアに抜かれてしまったと聞けば、異常事態だと捉える。そして、早急に対処が必要だと考える。
しかし、いまの日本では、諦めムードが一般化してしまったようだ。本章の最初に述べたように、「世界競争力ランキング2023」のニュースは日本ではほとんど話題にならなかった。しかし、実はこれこそが、最も危険なことだ。
なぜなら、少子化対策を行っても、そして、それが仮に効果を発揮して出生率が上昇したとしても、日本の人口高齢化は、間違いなく進行するからである。
それによって、経済の効率性は低下せざるを得ない。その厳しい条件下で人々の雇用と生活を支え、社会保障制度を維持していくためには、生産性を引き上げ、日本の競争力を増強することがどうしても必要だ。したがって、決して諦めてはならない。いまの状況は当たり前のことではなく、何とかして克服しなければならないのだ。
実際、一度は衰退したにもかかわらず復活した国の例は、現代にもいくらでもある。その典型がアイルランドだ。アイルランドは製造業への転換に立ち後れ、1970年代頃までヨーロッパで最も貧しい国の一つだった。しかし、IT化に成功して、90年代以降、奇跡的な経済成長を実現した。2023年の世界競争力ランキングで、同国は世界第2位だ。
日本人の基礎学力は世界のトップクラス
日本人の能力がわずか30年間でこれほど急激に落ちてしまったはずはない。実際に、OECD(経済協力開発機構)が行っているPISAという小中学生を対象にした学力テストの結果を見ると、これが分かる。
直近の2018年調査では、数学的リテラシーは世界第6位、科学的リテラシーは第5位だった。読解力は前回から下がったものの、OECD平均得点を大きく上回っている。このように、日本人の基礎的な学力は、依然として世界トップクラスなのである。
日本人は、このように高い潜在的能力を持ちながら、それを発揮できない経済・社会環境に置かれてしまっているのだ。
言い換えれば、かつて強かった日本が凋落した原因は、1990年代の中頃以降に取られた政策の誤りにある。
1990年代の中頃以降、政策面で何が起きたかは明らかだ。円安政策を進めたのである。これによって、企業のイノベーション意欲が減退した。
企業がイノベーションの努力を怠ったために、日本人が能力を発揮する機会を失ってしまった。これこそが、日本経済衰退の基本的なメカニズムだ。
この意味で、いまの日本経済の状態は異常なのである。そして、政策のいかんによって変えられるものなのだ。
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