「お公家集団」岸田派は政局に鈍感で解散の好機逃す
「6月の国会会期末で解散するべきだった。後悔先に立たずだ」
自民党関係者はうなだれながら、そうつぶやいた。
岸田首相が今年、最も輝いていた瞬間は、間違いなく5月に行われたG7広島サミットだろう。サミットではG7各国首脳が原爆資料館を訪れただけでなく、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日というサプライズもあり、世間でも岸田政権に対する好印象が広がっていた。
NHK世論調査でも5月の内閣支持率は46%まで上昇、不支持率の31%を大きく引き離していた。
もともと岸田首相は外務大臣を5年弱務め、外交に対しては強い思い入れがある。
ロシアによるウクライナ侵攻によって世界情勢が混沌とするなか、広島をお膝元にする首相として「核なき世界」をG7各国に提唱し、ロシアや中国の力による現状変更を許さない「法の支配」を打ち出して一体感を演出。さらに、外務次官経験者の秋葉剛男国家安全保障局長と秘密裏に調整してゼレンスキー大統領の来日を実現した。
広島サミットが成功した背景には、国際情勢の変化も大きかった。
ウクライナ侵攻を受けてG7は結束することが求められており、アメリカのバイデン大統領は大統領選で核軍縮を公約に盛り込むなど、「核なき世界」に対する理解が厚い。
さらに、韓国では親日的な尹錫悦政権が2022年に誕生し、日韓関係は急速に改善していった。
つまり、“得意”の外交分野で追い風を受けるなかで、岸田政権は支持率を伸ばしていたのだ。
通常国会が会期末を迎える6月には、岸田政権が広島サミットの波に乗り、そのまま解散に打って出るのではないかという観測が飛び交った。
実際、当時の永田町では故・安倍晋三元首相の一周忌である7月8日に解散総選挙を近づけて、弔い合戦のような形で衆院選を行うという日程案までもが出回っていた。
しかし、最終的に岸田首相は「今国会での衆院解散は考えていない」と表明し、解散見送ることとなった。
全国紙政治部記者は当時をこう振り返る。
「政局に敏感な安倍派からは『今、解散しないでいつするんだ』という声が挙がっていたが、岸田派では『じっくり政策をやって内政でも成果を出してからでも解散は遅くない』という楽観的な雰囲気が漂っていた。岸田首相も『焦って解散を打つ必要はない』と解散見送りを判断したのだろう」
岸田派が系譜を継いでいる宏池会は「お公家集団」とも呼ばれ、政局に対しては鈍感という評判が昔からついて回るが、ここでも解散の絶好機を逃してしまったと言えるだろう。
その後、岸田政権の支持率は転落の一途をたどることとなる。