被害者への深刻な心理的影響

この調査では、性加害を受けたのち、被害者は「異性と会うのが怖くなった」「誰のことも信じられなくなった」「夜眠れなくなった」「自分に自信がなくなった」などさまざまな心理的変化を経験していることも示されています。4人に1人は「生きているのが嫌になった・死にたくなった」と回答していることも見逃せません。

医学的には、性暴力を受けた被害者への心理的影響としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)や解離性障害、うつ病などの精神疾患、不安症状、神経症やパニック障害などの神経症全般、強迫性障害、自傷行為などがあります。また、とくに女性では摂食障害(拒食・過食)も見られます。

なかでもPTSDや解離性障害は、性被害後によく見られる症状です*3。

PTSDは、強烈なショック体験や精神的ストレスにより引き起こされる障害です。性被害だけでなく、戦争や震災、台風や火事、事故で重傷を負う、非業の死を目撃する……などといった、日常とはかけ離れた命の危険を感じるような状況に遭遇した後に起こります。代表的な症状に不眠や集中困難、恐怖を感じたときの記憶や感覚が突然よみがえる「フラッシュバック」などがあります。

また、安全な場所にいても常に緊張して神経が過剰に研ぎ澄まされてしまい、平常時なら気にならないようなことが気になって、イライラして落ち着きがない「過覚醒」に陥るのも代表的な症状です。子どもの頃に性被害を受けた場合、PTSDは10〜20年という年月を経て発症するケースも珍しくありません。

「ふたりだけの秘密だよ」日本の子どもの4人に1人がなんらかの性被害にあっているという事実をどう受け止めるか。気づけない幼い心理につけ込む悪質の実態_2

解離性障害の「解離」とは、「解いて離れる」と書くように、自分の感覚や感情・知覚・アイデンティティが切り離されるという現象です。つらい体験から自分を守るため、性被害者は一時的に記憶をなくしたり、外から自分の体を見ているような感覚になったりすることがあるのです。

現実にはありえないような不思議なものが見える、声が聞こえる、周りの景色がすべてモノクロにしか認識できない、香りを感じられなくなる……などのさまざまな症状が出る人もいます。いわゆる多重人格(解離性同一性障害)とも呼ばれるように、複数の人格を持つこともあります。

さらに過去の性被害によるトラウマが原因で、不特定多数との性的逸脱行為など、さまざまな問題行動を引き起こすことも珍しくありません。とくにこれは女性に多いのですが、性被害にあったのちに「自分には価値がない」「こんな私は汚らしい」と自暴自棄になり、自傷行為的に不特定多数と肉体関係を持ってしまうパターンです。

男性でも、子どもの頃の性的虐待によって性依存症に陥ることもあります。私が監修として携わっている漫画『セックス依存症になりました。』(集英社)の作者である津島隆太さんは、幼少期に父親から性的虐待を受けたことから性に対する認知が歪み、成人になってからも、強迫的にセックスにのめりこむセックス依存症になった自身の経験を作品の題材にしています。