加害者が使い分けるアメとムチ
斉藤 グルーミングをする加害者はとても巧妙に子どもを手なずけます。まさに「加害者はマジックを使う」といっても過言ではない。
川本 被害者支援の立場から見ても、彼らは「アメとムチ」を巧妙に使い分けていると思えます。頻繁にLINEやDMを送って、どこまでもやさしく子どもに接していたと思いきや、なんらかの事情で子ども側からの返信が滞ると、そこで「ムチ」を与えます。
「なんで昨日は返事してくれなかったの?」「こっちは寝ないで待ってたのに」「ほかの友達と一緒にいるほうが楽しいなら、もう自分は用済みだね」などと駆け引きする。すると、ターゲットにされた子ども側も「嫌だ!いなくならないで!」と懇願し、ふたたびアメを与えられることを繰り返していくと、やがて「自分たちは相思相愛だ」と思い込んでいく。
斉藤 大人同士でも、相手を試すような言動をするモラハラ気質の人もいますね。
川本 さらに加害者は、一度に何十人もの子どもを同時並行的にグルーミングすることも珍しくありません。彼らは魚を寄せるためにコマセ(寄せ餌)を撒いているわけです。釣りでも最初からコマセを撒きすぎてしまうと、魚も満腹になって針のついた餌には見向きもしなくなってしまいますよね。グルーミングも最初からアメだけを与えすぎず、アメとムチを巧妙に使い分ける点も釣りと通じるものがあると思います。
斉藤 コマセ、言い得て妙ですね。ターゲットに狙いを定める際の、加害者のアセスメント(評価・査定)能力の高さには驚くべきものがあります。加害者は、ターゲットにする子どもについて「家庭では親と仲がいいか」「学校では教師とうまくやっているか」「信頼できる友人はいるのか」など入念なリサーチを行い、子どもの孤立具合を査定します。子どもが抱える「闇の深さ」「孤立具合」を、社会との関係性のなかからアセスメントして、アプローチしていくわけです。
川本 その手法は繰り返していくほど、システム化されて無駄がなくなってきますね。社会生活で孤立感を抱いている子がグルーミングの標的にされやすい一方で、いわゆる「普通の子」が被害にあうケースも少なくありません。
とくに中学生頃になると、クラスでも美男美女がモテる、スポーツの成績上位の生徒が人気を集めるといった「スクールカースト」ができますよね。スクールカースト上位者は、他者からの性的な目線にも意識的になりますが、上位にランクインできない子は、「別に自分はモテるタイプじゃないし」「自分には性的な話は関係ないよね」と思いがちだったりします。
斉藤 他者から性的に見られることに極めて無自覚である。
川本 けれど大人から見たら、その時期の子どもたちは皆一様に若い生命力がほとばしってるじゃないですか。大人からするとスクールカーストなんて関係なくて、若いだけで魅力的です。しかし、当人はそんなことはつゆ知らず、他者からの性的な視線に無自覚な「普通の子」が無防備なままグルーミングのターゲットにされる、といった例も付け加えておきたいです。
斉藤 小児性犯罪の加害者はよく「承認欲求を転がす」という表現を使うのですが、ターゲットに対して、いまここでどのような言葉を使えば、子どもたちが「自分は承認された」と感じるかをとてもよく知っているんです。そういった意味でも彼らは「いまここで」という感覚にとても長けているように思えます。
この「いまここで」という概念は、カウンセリングでは「ヒア・アンド・ナウ」と呼ばれ、とても重視されます。研鑽を積めば敏腕カウンセラーになれたのではないか、とさえ思ってしまう加害者が何人もいるのは、なんとも皮肉な話です。