米英豪に日本を加えた「中国包囲網」

では、海自が誇る最新鋭潜水艦の「たいげい」型(通常動力型)ならどうだろうか?

「対ミサイル原潜の戦術の基本は母港から出た当該艦を追尾し続けることなので、いくら性能が伸びたといっても海上に浮上して息継ぎが必要な通常動力艦では無理でしょう。米海軍が行っているミサイル原潜パトロールは通常4〜5週間なのに対し、『たいげい』型が潜航し続けられるのはせいぜい10~14日間にすぎないからです。

海自の潜水艦は狭い海峡での待ち伏せ運用に特化しているので、南シナ海の『聖域』から096型原潜が出てこないかぎり、交戦する機会も少ないでしょう。 ただ、フィリピン・パラワン州に設置されるアメリカ軍基地に『たいげい』が寄港し、そこから南シナ海に出撃するなら096型原潜の通り道に待ち伏せして探知・補足することはできるかもしれません」(前同)

基本的に我が国の潜水艦戦略は海峡などに潜んで、相手艦の発する音を探知するほかない。チェイスとなったら通常動力型の日本の潜水艦は原潜ほどスピードが出ないので、一度振り切られると追尾はできないだろう。

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となると、頼みは米海軍の原潜となるが――。

「中国潜水艦の大半は通常動力型なので、必ず海上に顔を出す。それを確実に捉えるために、米海軍のP-8哨戒機は対潜能力を犠牲にしてまでも無人機と連携して広範囲の海域を監視する能力を実装しており、中国海軍の主力である通常動力型潜水艦に対しては哨戒機、駆逐艦で探知・撃破する態勢を整えています。

ただ、原潜に対しては原潜による追尾での対応が基本です。そのため、096型の建造で中国の原潜数が増えると、米太平洋艦隊潜水艦隊の負担はますます重くなる一方でしょう」(前同)

各国の海洋を睨んでの“チキンレース”は水面下でますます加熱していくばかりだ。11月13日に自民党の麻生太郎副総裁が豪州キャンベラで、米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS」に、日本の「J」を加えることを提唱した。

麻生氏は「中国の長期的目標は海軍力で第2列島線(伊豆諸島からグアムに至るラインの内側)を支配することだ」と分析し、その試みを妨げることができなければ米海軍の活動が抑え込まれるとの危機感を示しているが、まさにそのとおりだ。

「AUKUS」では対中国の柱として、豪の原潜開発に米英が一致協力している。ただ、中国も096型原潜の新造で対抗の姿勢を露わにしている。もはや、米英豪だけでなく、そこに日本が加わって結束しなければ対応できないのも事実だ。中国が仕込む次世代型ミサイル原潜を「ジョーカー」にしない国際協力が必要だろう。

取材・文/世良光弘 写真/shutterstock