2023年度(1月~12月)に反響の大きかった国際情勢記事ベスト5をお届けする。第5位は、トランプ前大統領の2024年大統領選挙における驚きの「返り咲きプラン」を考察した記事だった(初公開日:2023年5月9日。記事は公開日の状況。ご注意ください)

「性交渉一回きりの不倫」を口止め料で隠蔽

4月5日、マンハッタンのトランプタワーからニューヨーク地検に向かう一台の高級車を何機もの空撮ヘリが追った。車中にいるのはトランプ前大統領だ。前日に前大統領が自家用機でラグワーディア空港に着陸して以来、マスコミによるトランプ空撮は止まなかった。

妻と友人を殺害したとして裁かれたアメリカンフットボールのスーパースター、O.Jシンプソンがそうだったように、ヘリまで使ったメディアの追跡劇は、かぎられた「悪人」を追う時だけに許された特権のようだ。ニューヨーク地検での罪状認否が行われたこの日、前大統領は問われた34件の罪すべてを否認した。その顔に笑みは一切なかった――。

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起訴内容の中心は、性交渉一回きりの不倫を隠ぺいするため、トランプ前大統領が口止め料を支払ったというものである。口止め料を払うこと自体は違法ではない。しかし、トランプ前大統領はその支出を事業費として計上しており、この記載がニューヨーク州法で禁じる偽造文書の作成にあたるとされたのだ。

ビジネス記録の改ざんは微罪で、通常であれば起訴にはならない。しかし、その改ざんが別のより重大な犯罪を隠ぺいするために行われたとしたら、その大罪を実行に移さなくても重罪に問える。
ニューヨーク地検の主張は以下のようなものだ。

2016年、不倫相手である元ポルノ女優のストーミー・ダニエルさんにトランプ氏の弁護士が13万ドルを支払い、後日、これをトランプ氏が補填。その際、この金を「弁護士費用」として計上していた。しかし、委託契約などの実体がないうえに支払い時期が米大統領選直前の2016年10月だったことから、選挙に悪影響を与えないための「口止め料」と考えられる。大統領選の支出を公表しないことは連邦選挙資金法違反であり、重罪となる。つまり、ビジネス記録の改ざんはニューヨーク州法では微罪だが、連邦法に照らせば大罪になるというわけだ。

捜査を指揮したアルビン・ブラッグ検察官が採用したこの起訴戦術は、彼の前任者が一度は検討したものの見送った、いわば「ゾンビ」事案だった。州法と連邦法をどうリンクさせるのか、その法解釈や判例が確定していなかったためだ。にもかかわらず、ブラッグ検察官が「ゾンビ」を掘り起こしたのはトランプ前大統領を起訴できるだけの新たな有力な証言や証拠を入手できたからと考えるべきだろう。