「崩壊」した米中のミリタリーバランス
今年の米国防総省発表では現在、中国の核弾頭保有数は500発超。それが2030年には1千発超になるという。ミサイル原潜に搭載される弾道ミサイルも「巨浪(JL)-2」から、より大型の「巨浪(JL)-3」になり、弾頭は1メガトンの単弾頭または個別誘導弾頭(MIRV)を最大10個程度搭載すると推測されている。
つまり、ここにきて米中のミリタリー・バランスは「崩壊」したと言っても過言ではない。そして「崩壊」は米国の「核の傘」による抑止力に依存する日本にとっても深刻な脅威となる。
これまで中国の「晋」級潜水艦が米本土にミサイルを撃ち込むためには、ハワイ近海まで進出しなければならなかった。しかし、「巨浪3」の射程は約1万2000キロと長い。そのため、中国の沿岸部からほぼ米全土を射程に収めることができ、もはや危険を冒してまで太平洋中央部に進出する必要はなくなったのだ。米国のミサイル原潜の「オハイオ級」が米本土近くの海域から出ないのと同じ理屈だ。
こうした中国潜水艦の動きをどう見るのか? 潜水艦に詳しい軍事評論家の毒島刀也氏に聞いた。
「中国沿岸の東シナ海から台湾海峡までの沿岸部は水深100m未満と浅いので、潜水艦にとって隠れる場所がない。そのため、潜水艦は母港のある海南島近辺から安全に隠れられる深度とされる水深300m以上の海域、つまり南シナ海まで出なくてはなりません。それは中国によって南シナ海が同国原潜の『聖域』と化すことを意味しているのです」
中国がASEANなどの周辺諸国と対立してでも南シナ海を我が者顔で支配しようと目論むのは、戦略的に重要なミサイル原潜の「聖域」として、この海域を確保したいという意味合いが強い。
もうひとつ、中国が同じように潜水艦の「聖域」として確保したい海域として、尖閣諸島から沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を抜けて水深のある太平洋に抜けるルートがあるが、いずれにしろ太平洋をめぐる米中激突の舞台は陸軍主体ではなく、海軍を主体とする戦いとなるだろう。
米国防省が発表した年次報告書(2022年)でも、中国海軍の艦艇数は現状の340隻から25年までに400隻、30年までに425隻になると報告されている。
一方の米国は300隻未満で、中国の急速な軍備増強ペースに追いつけていない。「中国海軍は艦隊を大型化させ、建造能力も我が国をしのぐなど、米海軍より優位な立場にある」(米海軍長官)と憂慮しているのが現実だ。アメリカの海軍戦略を大きく変化させなければ、中国に対応することが困難になっているのは明らかだ。