逃げようとしたメンバーはタバコの火を押しつけられ…

2019年10月22日に、熊井被告はフィリピンに渡航した。到着した翌朝、“詐欺マニュアル”を渡されて、この短期アルバイトが闇バイトの「かけ子」だとわかったという熊井被告。しかし、これまでの法廷での熊井被告の証言などによると、組織全体の“ボス”である渡辺被告らに脅迫され、やらざるを得ない状況にあったという。

渡辺被告(写真/共同通信社)
渡辺被告(写真/共同通信社)

「実家の住所を知っている、自分たちは日本の警察ともつながっているから、脱走して被害届を出しても取り消されると言われ、逃げようとしたメンバーがタバコの火を押しつけられたり、ビール瓶で殴られたりする動画も見せられた。ボスである渡辺被告から直接脅された人はまわりにいなかったが、恐怖だった」(法廷での熊井被告の証言要旨)

また、法廷では組織の詳細も判明した。

「各メンバーの役割はチームリーダーのもと、『1線』『2線』『3線』と分担されていて、熊井被告はA箱というチームで一番下っ端がやる1線を担当していました。警察官などを語り、高齢者がどの金融機関のキャッシュカードを持っているかといった基礎情報を聞き出す担当です。まずは口座が不正に残高照会されているなどと高齢者をひとまず騙す。うまく騙せたら2線に引き継ぎます。2線は財務局職員などを語り、さらに踏み込んだ話を持ちかける。そして3線が日本にいる共犯者に具体的な犯行の指示をします」(前述の司法担当記者)

このような1線の犯行を担った熊井被告は冒頭のように2件の窃盗罪で起訴されていた。

起訴状によると、熊井被告は他の共犯者らとともに、2019年11月13日、渋谷区在住のAさん(当時65)から350万円以上をだまし盗っていた。

「Aさんのもとに警察官などを名乗る人間から、『Aさん名義の口座が不正に残高照会されているので、口座が悪用されていないか調べるため、キャッシュカードを封筒に入れて保管する必要がある。財務局職員が訪問する』などと電話があった。その日のうちに財務局職員になりすました日本国内にいた共犯者の男が自宅を訪問し、キャッシュカードが5枚入った封筒をAさんが目を離した隙に、別の封筒とすり替えた。そしてその日のうちに、男は口座から計350万9000円を引き出したんです。さらにこの男は同じ手口で同日、足立区のBさん(当時76)からも63万3000円を盗んでいた。2人あわせて414万2000円です」(同)

グループ幹部の今村磨人被告
グループ幹部の今村磨人被告


このような犯罪に加担していた熊井被告ら末端の取り分はというと……。

 「取り分は1線などの末端は5%。この2件は熊井被告が直接担当したわけではありませんが、合わせて400万円以上の被害額なので、5%でも担当者の取り分は20万円以上になります。こういった犯罪行為を熊井被告は日本から遠く離れたフィリピンで繰り返していた」(同)