キョンキョンのお尻のぬくもりが……
「キョンキョンだ!」と誰かが言った。その年、小泉今日子は大ブレークしている。よし、私たちもKYON2をめざして無名の若手ライターから卒業しよう! 週刊本『卒業/KYON2に向って』は1週間後に発売されて、それなりに話題を呼んだ。
これがきっかけで私は筑紫哲也編集長の「朝日ジャーナル」誌の〈新人類の旗手たち〉というページに登場、新人類文化人と呼ばれるようになる。急に脚光を浴びた。取材が多数舞い込む。ラジオ番組でついに小泉今日子とも対談した。目の前に実物のキョンキョンがいる。ぴかぴかしていた。これが本物のアイドルの輝きか! とくらくらした。
とはいえ、新人類ブームなんてすぐに過ぎ去る。あっという間に消費された。所詮、私たちは時代のアダ花にすぎない。週刊本で放談して、そこそこの脚光を浴び、新人類3人組とも呼ばれた私たちは、その年の暮れに雑誌の企画で解散宣言を果たす。
「月刊プレイボーイ」のグラビアページだった。六本木のスタジオで似合わないタキシードを着た3人は、著名なカメラマンに写真を撮られる。そこに1人の女の子が現れた。
……小泉今日子だ。 新人類トリオは、時代のスター・キョンキョンにプロポーズするも、あえなく振られる……というシチュエーションである。
「よし、新人類の皆さん、フロアにうつ伏せに倒れて、折り重なってください!」
カメラマンの指示が飛ぶ。小柄な私が一番上にうつ伏せた。
「今日子ちゃん、新人類の上に座って〜」
なんと私のお尻の上に小泉今日子が腰掛けたのである! 今でも忘れられない。19歳のキョンキョンのお尻の感触。ぬくもり。ああ、あのぬくもりがあったからこそ、その後、40年近くもアイドルの魅力を伝える仕事を続けてこられたのではないか? そう、それは私の人生のハイライトのような瞬間だった。
文/中森明夫
写真/Shutterstock
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