キョンキョンのお尻のぬくもりが……

「キョンキョンだ!」と誰かが言った。その年、小泉今日子は大ブレークしている。よし、私たちもKYON2をめざして無名の若手ライターから卒業しよう! 週刊本『卒業/KYON2に向って』は1週間後に発売されて、それなりに話題を呼んだ。

これがきっかけで私は筑紫哲也編集長の「朝日ジャーナル」誌の〈新人類の旗手たち〉というページに登場、新人類文化人と呼ばれるようになる。急に脚光を浴びた。取材が多数舞い込む。ラジオ番組でついに小泉今日子とも対談した。目の前に実物のキョンキョンがいる。ぴかぴかしていた。これが本物のアイドルの輝きか! とくらくらした。

とはいえ、新人類ブームなんてすぐに過ぎ去る。あっという間に消費された。所詮、私たちは時代のアダ花にすぎない。週刊本で放談して、そこそこの脚光を浴び、新人類3人組とも呼ばれた私たちは、その年の暮れに雑誌の企画で解散宣言を果たす。

「月刊プレイボーイ」のグラビアページだった。六本木のスタジオで似合わないタキシードを着た3人は、著名なカメラマンに写真を撮られる。そこに1人の女の子が現れた。 

〈小泉今日子と中森明菜の“アイドル伝説”〉キョンキョンのお尻のぬくもりに触れて今日まで仕事を続けてこれた! 「おたく」の生みの親・中森明夫が語る_4
写真はイメージです
すべての画像を見る

……小泉今日子だ。 新人類トリオは、時代のスター・キョンキョンにプロポーズするも、あえなく振られる……というシチュエーションである。

「よし、新人類の皆さん、フロアにうつ伏せに倒れて、折り重なってください!」

カメラマンの指示が飛ぶ。小柄な私が一番上にうつ伏せた。

「今日子ちゃん、新人類の上に座って〜」

なんと私のお尻の上に小泉今日子が腰掛けたのである! 今でも忘れられない。19歳のキョンキョンのお尻の感触。ぬくもり。ああ、あのぬくもりがあったからこそ、その後、40年近くもアイドルの魅力を伝える仕事を続けてこられたのではないか? そう、それは私の人生のハイライトのような瞬間だった。

週刊明星 1990年1月18・25日号(集英社)
週刊明星 1990年1月18・25日号(集英社)
すべての画像を見る

文/中森明夫
写真/Shutterstock

#1 加護亜依は勝新太郎、広末涼子は無頼派、上戸彩は特別賞の特別賞…筋金入りのアイドル評論家が明かす「アイドルになるためのルール」とは
#2 「アイドルを推すことは未来を信じることだ」ジャニーズ、宝塚といった伝統の崩壊…中森明夫がそれでもアイドル文化はなくならないという理由
#4 「……いい顔になる」2005年にAKBブームを予見した超おたくとの秘話と、秋元康が放った《これからは最大公約数ではなく最小公倍数の時代》の真意とは

『推す力 人生をかけたアイドル論』
著者:中森 明夫
〈小泉今日子と中森明菜の“アイドル伝説”〉キョンキョンのお尻のぬくもりに触れて今日まで仕事を続けてこれた! 「おたく」の生みの親・中森明夫が語る_5
2023年11月17日発売
1100円(税込)
新書判/256ページ
ISBN:978-4-08-721289-1
アイドルを論じ続けて40年超。「推す」という生き方を貫き、時代とそのアイコンを見つめてきた稀代の評論家が〈アイドル×ニッポン〉の半世紀を描き出す。彼女たちはどこからやってきたのか? あのブームは何だったのか? 推しの未来はどうなるのか?

芸能界のキーパーソン、とっておきのディープな会話、いま初めて明かされる真相――そのエピソードのどれもが悶絶級の懐かしさと新鮮な発見に満ちている。
戦後日本を彩った光と闇の文化史とともに、“虚構”の正体が浮かびあがるアイドル批評の決定版!
amazon 楽天ブックス honto セブンネット 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon