用意周到に犯行を準備していた
2008年11月17日、18日に元厚生事務次官2名の自宅が相次いで襲撃され、家族らが死傷した元厚生事務次官宅連続襲撃事件。
事件発生から数日後、Kという男が自らレンタカーで警視庁へ出頭し、逮捕された。
Kは出頭直前、新聞社やテレビ局などの複数メディアに向けて、「今回の決起は年金テロではない! 34年前、保健所に家族を殺された仇討ちである!」などと記載したEメールを送り付けていたことがのちに判明。
あまりにも不可解な“事実上の犯行声明”に対して、「常人には理解しがたい事件だ」「本当の動機を隠しているのではないか」など、世間は騒然となった。
「34年前に殺された飼い犬の恨み」というにわかには信じがたい理由で、保健所の上省である厚生省(現・厚生労働省)の元トップを襲撃したKという男は、いったいどんな人物なのか――。
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近隣住民らの取材を通して、Kは近所の建設工事を巡って建設会社とトラブルになっていたこと、さらに訪問販売の勧誘員を怒鳴りつける姿がたびたび目撃されていたことがわかった。
Kの“キレやすい”性格が浮かぶ一方、今回の事件につながるような行動は、居住地付近の取材からは見えてこなかった。
だが、警察の家宅捜索で押収されたKのパソコンを解析すると、事件の約1か月前には、襲撃された元厚生事務次官のAさん(享年66歳)と妻のBさん(享年61歳)、同じく元厚生事務次官のCさん(当時76歳)と妻のDさん(当時72歳)の自宅付近の駐車場を調べた痕跡が残されていた。
Kが用意周到に犯行を準備していたことがわかる。
山口県出身のKは九州にある国立大学理工学部を中退後、コンピューター関連の会社に就職。しかし仕事は長続きせず、職を転々とし、事件前には自宅で株取引を行うなどして生計を立てていたとされている。
Kの両親は山口県に住んでいたが、地元紙をはじめとしたごく少数のメディアの取材にしか応じておらず、各社がKの実家に日参していた。
そんな折、筆者の元に耳よりな情報が飛び込んできた。