「Kの両親が取材に応じると言っています」
Kが警視庁へ出頭した翌週。
埼玉にあるKの自宅周辺の近隣住民への取材、山口にあるKの実家周辺での取材がある程度収束したころに、山口での取材を担当していた同僚記者から「『被害者にお詫びをしたい』との理由でKの両親が取材に応じると言っています」との連絡を受けた。
「先週は実家周辺に大勢の記者が詰めかけて取りつく島もなかったので、Kの両親に手紙を出したんです。いま連絡がきました」
筆者は埼玉での取材を急きょ切り上げ、同僚記者とともに山口へ向かった。Kの両親から指定された取材場所は自宅。訪れたのは午前10時ごろだったと記憶している。
「いくら当事者が取材を了承してくれたとしても、会う寸前になって心変わりするかもしれない」
長年の経験からそうした一抹の不安を覚えた筆者は、両親から指定された時間の約30分前に自宅へ向かうと、すでに地元紙の記者ら数名が自宅を囲んでいた。
「嫌な予感が当たるかもしれない」
そう感じた筆者は指定時間前にもかかわらず、同僚記者とアイコンタクトを取り、玄関の戸を叩いた。
「手紙を出させていただいた○○です」
同僚記者がそう告げると、Kの父親が引き戸を開け、少し顔をのぞかせた。その瞬間、周囲にいたほかの記者が一斉に父親へと群がった。
「入ってください」
父親にそう告げられ、筆者と同僚記者が中に入ろうとすると、ほかの記者もそれに続けとばかりに玄関先に押し寄せてきた。
すると父親は「この人たちからは手紙をいただいて、会う約束をしていたんです」と毅然と応対し、ほかの記者を遮断して筆者と同僚記者だけを自宅へ招き入れてくれた。