「いい子」でいないと生活が成り立たなくなる
――石井さんがヤングケアラーの問題に取り組むようになったのは?
石井 僕は機能不全の家庭をたくさん取材してきました。そういう家庭では、親がアルコール、ギャンブル、薬物といった依存症だったり、統合失調症やうつ病といった精神疾患を抱えていたりします。あるいは常識が欠如していて育児放棄をしているなど。
こういう家庭で育った子どもは、生き延びるために子どもの頃から頼りにならない親の代わりに自分が家庭を支えていこうとします。親の代わりに家の掃除をして、ご飯を作って、幼い妹や弟の面倒を見て、時には親の使いパシリになる。そして中学を卒業したらさっさと就職して家にお金を入れようとする。
――と、いいますと?
石井 機能不全の家庭に育てば、子どもは自分でも気がつかないうちにヤングケアラーになっていくんです。けど、周りはそのことに気づかない。「家のことをいろいろとやっているえらい子供ども」「病気の親の面倒を見ているたくましい子供」「きょうだいの世話をする優しい子ども」と見なすのです。
でも、本当に子どもをほめちぎって終えてしまっていいのか、という気持ちが僕の中にずっとありました。子どもたちは子どもとしての大切な時間を過ごすことができず、いろんなストレスや傷つき体験を重ね、未熟な状態で社会に出たことで安定した仕事に就けずに貧困に苦しむことになる。子どものころのトラウマが、成人して心の問題として出てくることも珍しくありません。ならば、ちゃんとその子たちが失っているものを見つめなければならないだろと思ったのです。
相葉 石井さんの本にもありましたが、ヤングケアラー自体が、ある種の虐待みたいなところがあると思うんです。
私は母が要介護になって、母をお見舞いに来た来客の応接対応もすべてひとりでやっていたんですが、そこで「えらいわね」と言われると「もっとしっかりしなきゃ」というメンタルにどんどんなっていくんです。
それは褒められたいからではなく、「いい子」でいないと生活が成り立たなくなるから。結局、未成年だから、親が何もできなくなると家が潰れてしまうんですね。結果的に「いい子」でいる以外の選択肢が取れなくなってしまいます。
石井 まさにその通りだと思います。なぜ周りが「いい子」と言うかといえば、そうすることで自分たちがやらずに済むから。「いい子」の役割をかぶせられた瞬間に、それ相応にしか生きられなくなるし、いまおっしゃったように、自分がやらなければすべてが崩壊してしまうというところにまで、追い詰められちゃうんです。
相葉 私は反抗期を迎えたことがないんですが、反抗期は自我の芽生えの最も強い部分だと思うんですよ。その期間を奪われてしまうと、大人になってからも人の顔色を見て過ごしてしまったり、あまり積極的になれないような人格が形成されやすいような気がするんですよね。